イルーナ

火星人メルカーノのイルーナのネタバレレビュー・内容・結末

火星人メルカーノ(2002年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

先日公開された『明日に向かって笑え!』は、2001年に起きたアルゼンチンの経済危機を描いたものでした。
本作はまさにその時期に作られた作品。当時のアルゼンチン国内の荒みっぷりが生々しく描写されています。
作風は『サウスパーク』に近いグロ&ブラック路線ですが、『サウスパーク』の突き抜けるような奔放さや明るさはなく、どこかジメッとした陰鬱さ。
キャラデザも『サウスパーク』が丸みを帯びた親しみやすいデザインなら、こちらは一見ユルそうでかなり荒んだ雰囲気。

ブエノスアイレスは街中、ホームレスやストリートチルドレンだらけ。ひき逃げや強盗、カツアゲが横行している。
薄灰一色の画面に二人の影が現れ、石を投げつけると砕け、それが電気屋のショーウインドーだったことがわかる冒頭や、売り物のPCやテレビ画面にタイトルやスタッフクレジットが映るOPがハイセンス。
で、メルカーノが地球に来た理由というのが、「人工衛星墜落の犠牲となったペットの復讐のため」というもの。
案の定不時着してしまい、何とかネット環境を手に入れて仲間たちに救援を求めるも、まともに相手してもらえない。
その理由が、「彼女との仲を邪魔したいから」というのが何とも……
ついでに火星人仲間が映画オタクで、地球人の作ったスペースオペラを「マンネリ」呼ばわりしていたのが何とも……
寂しさのあまりネットに故郷を再現したところ、地球人のオタク少年フリアンと出会い友情をはぐくむものの、不運なことに彼の父親が巨大企業のトップだったため搾取され、自分の世界すら奪われてしまうのだった……と、とにかく気の毒なメルカーノ。
メルカーノのことを勘違いして「Mercado」と呼ぶ場面がありますが、これは「市場」の意味。
メルカーノの名前自体はおそらく火星人を意味する「Marciano」から取られたのでしょうが、「市場」の意味も含むとしたら皮肉が効きすぎている。

しかしこれ、今観るとかなりこの時代を予見したような内容でビビる。
全人類が、配布されたパソコンによってネット世界に釘付け……というのはスマホに置き換えられる。というかどこでも使える分、むしろ現実の方が悪化している。
通販についても瞬間移動まではいかないものの、ネット環境さえあれば家にいながらお手軽にできるし、何なら当日配送だってできるから、かなり本作の世界に近づいている。

そして何よりこの作品、終盤の怒涛の展開(というか超展開)が忘れられない。
それまで血みどろのやり取りが繰り広げられていたのが唐突にミュージカル化!
メルカーノは故郷に帰れてめでたしめでたし……と思いきや、さらにとんでもない爆弾が!
「正解は青でした」
衝撃的かつあまりにもあっけない結末。人を食ったような話とはまさにこのこと。
ある意味このラストが全てと言っても過言ではない作品です。

追記
Youtubeで原型になったらしいサイト版がアップされているのですが、第8話……
オベリスコがー!!!
さらに本作よりも火星仲間からの扱いが悪化していて不憫すぎる😭
イルーナ

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