荒野の狼

幕末の荒野の狼のレビュー・感想・評価

幕末(1970年製作の映画)
3.0
1970年公開の120分のカラー作品。司馬遼太郎の小説「竜馬がゆく」が原案であるが、大作の小説で描かれている坂本龍馬の青年時代から死までの主な出来事をすべて映像化しようとしたためか、小説の名場面の映像化という印象。丁寧に描かれているのは、冒頭の土佐藩における独特な武士の身分差別である上士(じょうし)と下士(かし)の関係に基づく事件のみである。この部分は、ドラマに深みができ、感情移入もできる。ただし、ここでの主人公の龍馬の出番は少ないため、龍馬の生涯のその他の大きな出来事を考えると、割愛したほうがよいエピソードとすら感じてしまう。
豪華なゲストが出演しているが、出番が多いのは主役の中村錦之助には、仲代達矢と中村賀津雄(中村の実弟)だけで、他は数場面の登場に過ぎない。吉永小百合は、1945年生まれであるので、本作公開時は25歳であり、龍馬の伴侶の「お良」を演じる。龍馬と結婚後のシーンでは、眉を剃った「引眉」に「お歯黒」であり、結婚前の登場シーンがなかったら吉永とわからないようなメーク。吉永の出演場面は短いので、「お歯黒」は江戸時代の既婚女性の化粧としては正しいが、ここは時代考証に忠実である必要はなく、吉永が本人とわからないほどに、その美貌をメークで隠してしまうのはもったいない演出。
一方で、池田屋事件では龍馬には史実にはない大立ち回りを演じさせており、相手の首まで刎ねる不要の残虐シーンまである。この場面でも、中村錦之助のアクションは短銃が中心で、日本刀は使うものの片手を負傷した後であるため、片手での殺陣で残念な出来。最終版の龍馬暗殺の場面では、中岡慎太郎役の仲代と中村の派手な立ち回りが見たかったが、殺陣は唐突であっさりと終わってしまう残念なもの。逆に、暗殺前の龍馬と中岡の会話シーンが無用に長く、このため緊張感が欠けてしまっている。三船敏郎が後藤象二郎役で出演しているが、こちらは殺陣シーンはゼロ。本作は、このように、フィクションを映画に入れている作品なので、中村、仲代、三船の派手な殺陣を入れてもよかったはずである。せっかくの剣豪俳優をキャストに入れているのにもったいない。本作には、池田屋事件と暗殺シーンにリアリティはあったが、これならば、殺陣のできない俳優でも同じシーンは撮れたと言える。
荒野の狼

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