矢吹

エレファントの矢吹のレビュー・感想・評価

エレファント(2003年製作の映画)
3.8
スクールカースト最下層の二人が起こした銃乱射事件と言われているコロンバイン高校で起きた実際の事件がベースのお話。

同じ高校にいるたくさんの人々のそれぞれの生活がプロセスとして描かれる。その生活は誰かが銃を構えることで突然終わることもある。その動機も不明のままに。
逆に、人間とは関係によって形作られるものだとより強く感じました。環境が人を作るといいますが。

一つ一つの生活を切り取っても、視点と角度によって見え方がまるっきり違う。それは群像劇でもあり、ある種オムニバス形式でもあり、同じ時間と同じ空間をたくさんの立場から描くことで見せられる。一見パルプフィクション的な面白さもあるけど、肝は全く別で、立場によって聞こえてくるセリフがまるっきり違ったりするのが一番面白かったな。
通常、同じ人物は同じセリフを発してるはずなのに、描かれる視点が違えば、入ってくる音声(字幕)が全然違う。
セリフがほとんどアドリブらしいです。監督曰くアドリブに特に意味はなく、その場で完結したセリフが欲しかったらしいけど。
だからこそ成立してる手法でもあるのかな。最初は繋がりのミスかと思ったが、そんなわけもなく、そこに人間の主観の脆弱さ、複雑さ、単純さが垣間見えるものとして考えてみるのも、面白いかなと思います。

一人一人の日常が半永久的に長回しで撮影される。ほぼ無駄なカットもBGMもなく、カメラは世界の傍観者としての役割が大きい。だから、どちらかというと一人称ではなく、ずっーと近距離での三人称視点。特定の人物への同一化とかじゃなく、客観をつらぬかされる。監督が言うように、ストーリーをあえて作らずに、いろんな人物の主観的な環境を客観的に見せられる感じ。そもそも、主観の排除というジレンマの中にあるドキュメンタリーとしては一つの理想的な態度と言えるんじゃないでしょうか。まあ映画としてプロットが存在するからこそではあるけれど。その延々と続く長回しの中にも、突然のカメラ目線や急なカット、ピントの調節など、いろんな遊びがあって面白かった。退屈しないし、何回も観れる。壊れるってわかってる上での日常もまた、いいよね。
元ネタのエレファントもみたい。
不気味な空に始まり、不気味な空に終わる。
矢吹

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