『エレファント』
印象的なポスターに惹かれて。
久しぶりにガス・ヴァン・サント監督映画を。
カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールと監督賞をダブル受賞した作品。
金髪。黄色いシャツ。
その空間の光を独り占めしたようなルックスの青年を映しているのに、退廃的に感じてしまうのはなぜだろう。
青空がくすんでいく。
虚しさだけを取り残した映像は、これから起こる惨事への予兆か。
それとも、すべての若者がかかえる焦り、苛立ち、不安の象徴か。
本作は実際にコロラド州の高校で起きた銃乱射事件を題材にしている。
高校生のキャストは本名の役として出演。
セリフはほとんどアドリブ。
それはリアルな高校生像を表現するだけではなく、筋書きのない、ただの一日が突如豹変してしまうインパクトを強調している。
鑑賞後、劇中で使用されるベートーヴェンの音楽も、撮影中にキャストがたまたま弾いた曲を採用したのだと知って驚いた。
キャッチコピー:「キスも知らない17歳が銃の撃ち方は知っている」
「エリーゼのために」が進行するとともに、日常は墜落していく。
入り組んだ時系列。
登場人物それぞれの後ろ姿。
彼らの歩くスピードに合わせた斬新なカメラワーク。
必要最低限のセリフは我々に考える余地を与えてくれる。
タイトル『エレファント』の表す意味はなんだ?
1989年に製作されたアラン・クラークの同名の映画を参考にしたことが一番の理由らしいが、謎めいた響きはさらに深掘りされることを求めているようだ。
もっと言うと、タイトルは一部に過ぎず、本編全体が様々な含みをもっていて、言葉で語ることを許さない、既存の表現を認めない、揺るぎない意志をひしひしと感じる。
DVDには特典映像が付いていて、その中にガス・ヴァン・サント監督のインタビューがあるのだけど、実はこれがめちゃくちゃよかった。
「メッセージ性がない、ということがメッセージ。登場人物を自由に感じてほしい」
など、映画鑑賞後に観るとうんうんと頷きたくなる話ばかりだ。
「最後に警官が介入するシーンを撮影したが、しっくりこなくて使わないことにした」
というエピソードもすごく気に入った。
「しっくりこない」と感じることのできる監督のセンス、ありきたりな話にしない、というこだわり、そして、問題を問題のまま描ききりたい、という製作意図。
映画にも、観た者の心にも、問題は残される。
悪役はいない。
正解はない。
「エリーゼのために」が鳴り終わる頃、余韻という答えだけが浮かび上がった。