ボクシング映画は好きです。アメリカン・ドリームをつかむ『ロッキー』とか、栄光からの転落を描いた『レイジング・ブル』、北野武の『キッズ・リターン』などなど。スカッとしたり、孤独な人間ドラマに共感したり……
でもクリント・イーストウッドのこの作品は他とはだいぶ違うかな。ボクシングの試合の迫力ある演出よりも、人間の内面心情を描くことが優先されているように感じられました。
ヒラリー・スワンクが演じる女性ボクサーとイーストウッドが演じるベテラントレーナーを中心に、前半はアメリカン・ドリームを実現していくサクセスストーリー、後半は2人を襲う悲劇が描かれます。
ヒラリー・スワンクは裏表のない素直な女性で、最初から最後までやりたい事、やって欲しい事がとてもはっきりしています。
この映画が素晴らしいと感じるのは、ヒラリー・スワンクに翻弄される頑固一徹な老トレーナーの心情の揺れ動きがとても細やかに描かれているところです。
表情にはあまり出さず、派手な演出も控えめ。代わりに光や影を使い分けてとても自然に心の変遷、苦悩や葛藤が映し出されていたと思います。
ラストの決断には賛否両論あるようですが、その是非を超えたところにこの映画の魅力はあるんじゃないかな。
イーストウッドの巧みな表現力は唯一無二と感じる映画でした。