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天使のnagashingのレビュー・感想・評価

天使(1937年製作の映画)
5.0
ルビッチはこれがベストかも。しばしば「洗練」と評される、この監督の大胆な省略や隠喩を用いた巧みな演出は、コメディよりもこういったシリアスなドラマに向いていると思う。粋で洒脱な「抑制」された表現やふるまいが、ここではほとんど「抑圧」の産物としてあらわれている。本心をあけすけに開陳しないのは、そのようなスタイルを希求しているからではなく、問題と秘密をはらんだ関係あるいは状況が、直接的な感情の吐露を許さないためだ。たばこもステーキもピアノも、その迂遠なはけ口として機能している。冒頭のシャルル・ド・ゴール広場の空撮、凱旋門を中心にぐるりとめぐる車の流れのごとく、彼らは核心に切り込むことを避け、そのまわりを周回している。そしてほとんど最後までその運動を維持しつづけてしまう。胸中を「天使」という架空の存在へのアプローチに仮託することで。最後の十秒には思わず「おお、すげえ……」と声が出てしまった。
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