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抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-のALABAMAのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

仏映画。ロベール・ブレッソン監督。
舞台はナチスドイツ占領下のフランス、リヨン。物語は捕らえられたフォンテーニュ仏軍中尉が車両で留置所に護送される場面から始まる。収監されてすぐに彼は、独房の窓から外を散歩する三人の囚人たちを通じ、外部との接触を試みる。また、内部でも他の囚人たちとあらゆる手段を用いてコミュニケーションをとり、所内の状況を推察する。そして彼は、押し込められた塀の中からの脱獄を決意する。
原題は『死刑囚は逃げた−あるいは風は己の望む所に吹く』である。映画作品におけるタイトルは、その作品、物語の要旨、要約となっている場合が多いため、できるだけ原題から理解する方が良いと思う。作品中でも明示されていた通り、主人公のモデルとなった男は、アンドレ・ドヴィニ(André Devigny)という仏軍中尉。彼は教師をしていたが、第二次大戦前の1939年仏軍に従軍し、ナチ占領後は対独レジスタンスとして活動した。主に諜報活動や、独軍の施設等の破壊行為を行なっていたが、裏切り行為によって投獄されてしまう。そこからこの映画のストーリーとなってくる。
この映画では、彼がレジスタンス活動を行なっていたことや、彼の生い立ち、身の上に関して必要最低限しか語られず、実際に彼がどのような罪で投獄され、なぜ適切な審理も受けずに銃殺刑となってしまったかは、重要な意味を為さない事項として処理されている。本作における「抵抗(レジスタンス)」は、彼の政治的な意思ではなく、個人的な死への抵抗として描かれているという点で、仏のレジスタンス活動を想起させる邦題の「抵抗」はあまり適切ではないように思う。主人公のフォンテーニュは、死の恐怖と自由の希望のために、己の「風」のような動物的本能に従って脱走を決意し、ブレッソンはその心的動向の過程と事実をなぞって、フィクションとして、その再現に徹したのだろう。
物語全体はナラタージュ形式によって進行し、必要な時代設定は冒頭で文字によって語られる。あとは不必要な要素を徹底的に排除し、時間と空間とそこに生きる人間の三点によってのみ構成されている。特筆すべき点は、カメラのフレームに対する意識だ。写真に関心を抱く人や、写真家経験のある監督に多いように思うが、フレーム外の空間の広がりや、フレームを用いた心理描写などに長けている傾向がある。最も効果的にフレームを用いた心理描写の場面として、独軍の見張りを殺す場面が自分の中で印象的だ。フォンテーニュが見張りを殺さなければならない状況での異常心理は、フレームによって彼のみを切り取ることでその緊迫感をよりリアルに再現させる。壁の曲がったところの陰に隠れる、強張った表情のフォンテーニュが砂利を踏みしめる音を聞いて敵との距離を測る。フォンテーニュの表情がわかるくらいのルーズショットだが、敵はフレーム外に配置されている。靴音はオフの音として流れるので、観客も音の遠近で位置を推察しなければならないという主人公との心理面の同調が無意識のうちに図られている。本当にお見事。
無駄のない洗練された映画で、大好きな作品のひとつ。
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