ナチス収容所の独房に収監された青年が、脱獄遂行のために全身全霊を注いでいく。一人の青年の脱獄計画をストイックに描いている、レジスタンス映画。実在の工作員アンドレ・ドゥヴィニの手記「死刑囚は逃げた」をベースにしている。
スプーンを使って、木製のドアの継ぎ目をひたすら削る。支給された衣服を分解して、道具を作るための材料にする。そんな、孤独な作業が淡々と綴られていく。それぞれのプロセスにおける緊張感が半端なく、現場の張り詰めた空気が伝わってくる。
主人公がチート級の強靭な精神力をもっており、数々の難関を突破していくところに映画的な面白味が集約されている。死が迫っていることを実感しているからこその研ぎ澄まされた集中力、あるいは火事場の馬鹿力というものを享受することができる。
終局における脱獄のシークエンスでは、砂利の音ひとつにも気を配るという徹底ぶり。ラストのペンギン歩きと背中で語らせる演出が心憎い。