人の死について考えてみる。
宗教家や哲学者は、死は解放であるとか、精神は肉体の死後も存在するとか、彼/彼女は極楽浄土に行ったから救われたのだとか宣う。
だが、実際に自分にとって欠かせない人間の死に立ち会わなければ、『死の匂い』は分かりようがない。
主人公の少年はあらゆることを論理的に捉える能力を持つ。
女について問われれば、彼は女の理想像を淡々と列挙しようとする。
しかし、朝起きて隣に女が寝ている時の感触は分かりようがない。
頭脳明晰であるがゆえに、自分の内側にある感覚に蓋をして、自分を覆い隠してしまう強さがある。それは強さだが、その実諸刃の剣だ。彼の暴力性や不安衝動はここに由来している。
この作品では、人間的に自律できない彼が、周囲の人達との衝突を通して、少しずつ自分を信じることができるようになっていく。
人間関係の難しさ、自分の感覚を推し測ることの難しさ。
今を生きる私達に必須のバイブルだと感じた。