シミステツ

スイートリトルライズのシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

スイートリトルライズ(2010年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

煙草を吸う中谷美紀、ガラス窓にはぁっと息を吹きかけ窓拭きする中谷美紀、窓の外から「おはよう」と言う中谷美紀、卵を溶く中谷美紀、テディベアを作る中谷美紀、毛クズをふうっと飛ばしたり、毛並みを整える中谷美紀、煙草はアメスピのウルトラ ライトだし、胡瓜をリズミカルに切るし、大瓶の牛乳を口元から滴らせながら目を瞑って飲む姿も、二重幅、鼻筋、まつ毛、口元のほくろ、マッチで火をつけ煙草を吸う口元、その手先も、犬のビンゴに話しかけやさしく撫でる姿、浴衣姿、海辺で本を読むのにロングカーデに麦わら帽子のコーデをチョイスする中谷美紀も全部好き。

怖い夢を見た。思い出せない。

結婚して3年。喧嘩もせず、日常に不満はない。家の中では携帯で連絡、部屋に鍵かける聡。そんなちょっと癖のある夫にも理解を示し優しく甲斐甲斐しく接する。そんな中、テディベアを欲しがる男性と出会い、写し鏡のようにふと寂しさが浮かんでくる瑠璃子。

「この家には恋が足りないと思うの」
「恋が必要なのかも分からない。ただないってことが分かってるだけ」

「心中するならソラニンよ」

「わたし窓って好き。だって表は夜で真っ暗なのに、窓のこっち側は安全だわ」

「同じものを見て、同じものを覚えておくの」

「聡は私の窓なの」

「瑠璃子さんの作るベアって孤独ですね」

「人は守りたいものがあるときに嘘をつくの」

「自分だけが寂しいと思わないで」

「人間は生きているうちはお化けよ。でも死ぬと不思議と人になるのよ」

「ただいま」

「帰ってきたのは俺だよ。どっかに行ってたの」

「おれももうすぐ帰るよ」

薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク
ナニゴトノ不思議ナケレド

薔薇ノ花ナニゴトノ不思議ナケレド
照リ極マレド木ヨリコボルル
光リコボルル
北原白秋 「薔薇二曲」『白金ノ独楽』

夫を大切に想う気持ちに変わりはなく、それでも燃え上がる恋心。
寡黙であまり感情を伝えないが確かな安心と繋がりのある聡。確かに愛を注ぎ嫉妬もし、欲望を共にする春夫。聡と瑠璃子はお互いに過ちをおかしながらも、嘘はつけない。不倫をすることで今までの自分から腕の中に入れてあげたりレストランを予約したり女性としての扱いも心ばかりの変化を見せる聡。守りたい人のために嘘をつく。聡、春夫。お互いの嘘をきっかけに夫婦の関係に変化が見えはじめる。トリカブト。どうあっても寂しさは拭えないもの。何の変哲のない日常でも、変わり映えのない毎日でも、毎日やってくる刺激のない朝でも、心の状態によって深い感動を生む。交わりを生む。心動く美しさも愛おしさもある。薔薇の花。咲くのは当たり前のように感じるけど、生き物に備わる美しさの根源でもある。こぼれ落ちる、生き切って死ぬ。そのことの美しさ、尊さ、これらを思い出すことの大切さ。

夫婦に必要なのは、赤と白の薔薇。
情熱と真実。