なべ

シェルブールの雨傘のなべのレビュー・感想・評価

シェルブールの雨傘(1963年製作の映画)
3.0
 ウエスト・サイド物語の塩レビューで、フォロワーさんに「シェルブールの雨傘」はどう?と聞かれて、久々に見直してみた。
 持ってるディスクが米クライテリオン盤なので普段は字幕なしで観ていたのだが、今回は配信で。字幕付きで観たのは30年ぶりくらいか。
 いつもはミュージックビデオの感覚で流して観ていたのだけれど、具体的な台詞がわかると…これエっグいなあ。
「できた?」「ええ、エンジンが軋むけど大丈夫です」「ありがとう」「どういたしまして」
こんな日常会話からして歌ってるんだよ!
「おーい、1時間ほど残業できるか?」これ、わざわざ歌わんでもええやろw
 そう、ミッシェル・ルグランは、歌詞じゃなくて台詞のオールメロディ化をしたわけ。当然歌う動機もなけりゃパッションもないよね。そんな調子で端役まで歌いまくりのシェルブールはまさに謡う港湾都市。でもここの住民はダンスを知らないのだ。歌は歌っても踊るエモは皆無なの。

 まるでミュージカルを見たことも聴いたこともないジャック・ドゥミが、「米人もすなるミュージカルといふものを仏人もしてみむとてするなり」と言ったかどうかは知らんけど(言ってない)、そんな誤認によってできたようなミュージカル映画。いや、ディスってるけど、気合いの入った力作なのは確かだよ。
 まあ、レミゼ(2012)なんかもそうなんだけど、ぼくは歌って踊ってハッピーなミュージカルが好物なので、踊らない本作はついつい塩レビューになる。もしナンバーに分かれてて、エモーションが高まったところで歌って踊るスタイルなら満点案件なんだけどなあ(それは後にロシュフォールの恋人たちという名で実現する)。偏狭かつ不寛容ですまん。
 昔、そんなに好きじゃないクラスメートが「音楽が素晴らしかったよね」と知ったふうな口をきいてきたので、「あん?テーマ曲以外で印象に残ってる曲あったか?ちょっと口ずさんでみて」と意地悪したことがある。そうなの、主題曲の旋律以外はてんでダメなのに、ミッシェル・ルグランだからと万歳する奴が多すぎて。鼻歌も歌えない曲なのに高評価って無茶苦茶やん。もし褒めるとしたら、彼なら“使用上の注意にだって曲をつけられる”ってところだろうよ。あ、華麗なる賭けや栄光のル・マン等、他のサントラはめっちゃ大好きだからね。

 ストーリーは逆ひまわりって感じ。戦争から帰ってきたら自分の子を妊娠してたカノジョは他の男と結婚してたってメロドラマ。
 でもドヌーブが人形のようにきれいなのと、セットがクソかわいくて、フツーにみてられるのだ。字幕さえなけりゃ。

 エンディングがあっさりしててつまんないって感想を時々見かけるけど、いやいや、そんなことはないだろう。散々ディスってきたけどそこはちゃんと擁護しときたい。
 最後のシークエンスは、選択しなかった未来を垣間見にやってきたんだよ。そう、ラ・ラ・ランドのラストと同じ。あそこまでしないとわからない人にはあっさりなのかもしれないが、ちゃんと表情が読めて、想像力がある人なら、ジュヌヴィエーブが偶然通りがかったのではなく、ギイに会いに来たのだとわかるはずだ。もしかしたらやり直す機会が得られるのかもと、叶わぬ夢をみていたのかもしれない。あるいはギイに娘を見せにきたのかも。“フランソワーズとフランソワ”——ジュヌヴィエーブとギイだけが知っている秘密の名前をそれぞれの子供につけた現パートナーへの裏切り。お互い諦めてはいるけれど、今なお忘れられないしこりのような小さな愛が伝わってくるよね。ぼくがラ・ラ・ランドをゴミ扱いするのは、こういう大人の芸当ができず、わかりやすい幼稚な手法でこのシーンを剽窃しているからだ。「ほら、ぼくってよく知ってるでしょ、わかってるでしょ、褒めて、ねえ褒めてよ」ってかまってちゃんな下品なオーラが画面の奥から臭ってくるのな。
 ハッピーじゃないけど、このほろ苦いラストシーンのおかげで、ぼくはシェルブールの雨傘が嫌いになれない。

 ふー。そんなこんなでまた塩レビューになっちゃったけど、これはそんなに嫌いじゃないよ。
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