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シェルブールの雨傘のrsのレビュー・感想・評価

シェルブールの雨傘(1963年製作の映画)
5.0
出逢いと別れ、再会とすれ違い。人々の運命は交差して美しい綾を織りなし、ドゥミ映画を彩る。

戦争というテーマの憂鬱さと色彩溢れる映像の甘ったるさに、台詞のメロディと叙情的な音楽が見事に綯い交ぜる。

戦争は何をもたらしたのか、戦場を映すことなく間接的に示されている。
青春を捨て、大人にならざるを得なかった男女の選択。そして辿りついた「今」を「幸せ」と言う強さ。ひとつの恋の終わりと、ふたつの愛の始まりが描かれた、儚く美しい映画。

優しい旋律に”Je t'aime”とくちづけて、恋するふたりの世界は、色とりどりの雨傘で彩られていたのに。ふたりが駅で別れたあの日から、雨はずっと降っていない──。

ドゥミ監督による映画への試みはじつに創造性に富んでいる。
全台詞を歌に代え、雨の降る街を俯瞰で撮影し、2人の世界に浸る恋人たちを普通に歩かせずレール移動。
部屋や街の壁が色鮮やかで、本編を通して万華鏡を覗いているよう。この色彩は、誓いも虚しく離ればなれになったジュヌヴィエーヴとギイ各々の章を結びつけている。それだけに、彼らの運命がきっと交わらないと知れるラストの、黒服と白雪が成すモノクロのような画が胸に迫る。

悲愴の中でも凛として歩み出すように響く、ルグランの調べ。ドヌーヴが演じる、少女から女への一歩。そのひとつひとつが透き通って美しい。

監督はまた、宝石商ロラン・カサールという仕掛けもしのばせている。彼が想いを馳せる美しいパサージュの画に、主人公ではない「誰か」にもまた運命はあるのだと、この映画の奥深さをみる。

映画的表現の可能性をあらゆる角度から追求したこの作品は、私を素晴らしい映画体験へ導いてくれる。
御伽話のようだけれど遠くに感じず琴線に触れるのは、恋の幻想を打ち砕き、人生や運命という現実を突きつけながらも、幸せを希求する、つまりは愛を築くという夢を与えてくれるから。
願わくは、恋が叶うことのなかった彼らが、それぞれの愛を築いていくことができますように。
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