義民伝兵衛と蝉時雨

人間の條件 第3部望郷篇/第4部戦雲篇の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

4.7
ちょっとこれは凄すぎた... リアリティがエゲツない... 戦争経験者だからこそ作ることの出来た反戦映画だと思う。

軍隊内の人間関係の様子から戦闘シーンまで何もかもがリアリティに溢れ過ぎていて衝撃的だった。なんという現実感... 軍隊内でのパワハラや虐めに近い暴力。先輩兵士達の理不尽なシゴキ。しかし、その様に軍隊内では粋がり威張っていた兵士達も、実際の戦闘に出ればタダの人間。ソ連軍の強力な兵器を前にしたら何の太刀打ちも出来る訳もなく、どんなに強い兵士だろうが弱い兵士だろうが皆んな同じタダの人間。強力な兵器を前にまるで虫ケラの如くいとも簡単にゴロゴロと殺されていく。泣き叫び、最終的には発狂する始末。兵士達は権力者達に洗脳され只々良い様に使われただけ。極限に暴力的で狂っている世界。それが戦争...

前作でヒューマニズム、そして勤務する鉄鋼会社で奴隷の様に扱われる捕虜達の自由の為に戦争の狂気と戦ってきた主人公・梶も、軍隊に入れば尚更微力な存在に。初年兵や上等兵ごときが軍部に抵抗し改革できる訳も無く、戦争の狂気にガッツリと巻き込まれていく。もうこの狂気に身を任せることしか出来ない。逃れる道は無い。それでも目の前の狂気と微力ながらも戦い、未来への活路を少しでも見出そうとする。心までは国家に渡さない。そんな綺麗事だけでは済まない様子が物凄くリアリティがあって観ていて苦しかった。

そんな主人公・梶を演じた仲代達矢の演技がとにかく凄い。前作では会社員だった梶は本作で兵士に。前作からの変わり方が凄い。演技力の高さ、役作りの技術、名優たる所以が手に取るように分かる。

戦闘シーンのスケールの大きさと迫力も凄い。本物の戦車が大地を練り歩く。砲撃シーンのリアリティのある迫力は凄い。手に汗握る緊張感。

内容と戦闘シーン共に緊張感が凄すぎて疲れた。心臓がまだバクついている... 国家権力の恐ろしさ。軍国主義の恐ろしさ。そして戦争の悍ましさ。巻き込まれることしかできなかった国民達のリアル。もう絶対に繰り返させてはならない黒歴史だと改めて感じさせられた。戦争経験者達が作った筋金入りの反戦映画だった。