超重量級の完結編
まずはあらすじから
ーーーあらすじーーー
[第五部 死の脱出篇]
■ソ連のトラックが街道を何台も通り過ぎる、監視を掻い潜り街道の向こうに渡るべく梶はソ連兵を軍刀で殺す、手についた血糊、三千子おれは人殺しだ、、、、、
梶たち数名は南満州に戻るため、方角も定かではないが歩き始める。
■脱走兵と出会った、朝鮮に入るという。向こうがアカならアカい顔すりゃいいんだろ、、、
関東軍は崩壊した、生活に戻るんだ、南満に向けて歩く一行
■女子供、老人数名の避難民と合流した、次第になくなる食べ物、バタバタと死んでゆく。最後の米を食べる一行。最後に残ったのは梶、寺田数名の兵士と竜子(岸田今日子)だけだった。
友軍に遭遇した、友軍は梶たちがおめおめ生き残っていることを責める。敗戦したがまだ戦うという。食料はもらえず梶たちは友軍と別れ歩き続ける。
民家を発見し、家畜の豚を殺して食べる。敵の姿はなく川で行水するなどしばし休息。
中国人民兵が襲ってきた、竜子は戦闘で死んだ。
梶は当初赤軍は人道的であると考えていたが、ろくでなしがいることがわかった。
■女性子供の避難民グループと出会った。少女(中村珠緒)と弟は家に帰る途中であり、梶は護衛に桐原をつけて向かわせる。しかし戻ってきた桐原の怪しい様子に問いただすと、露助で汚れた体をおれが清めてやったと言ったため梶は桐原を殴りつけて追放した。
[第六部 曠野の彷徨篇]
■ある部隊との合流、梶と分隊長は激論を交わす、敗戦?日本はどうなった?
赤軍は満州をどうするか?支那に返すのか?蒋介石にか?いや、、取ろうとするでしょう隊長は50人で行動を起こすと決意、梶はそれは兵隊の無駄死にだと反発、合流するか別行動か梶は自分の隊に選択してくれという。
2名の脱落者を殺す粛清のため隊長、梶の部隊はそれを見て一触即発
■ソ連兵の軍団が通過、火炎放射器を持っている、ソ連兵との戦闘
ある部落にたどり着いた、長老(笠智衆)と数人の女たち、避難民の女(高峰秀子)は敗戦国の女の辛さを語る、でも日本の敗残兵はひどいより赤軍の方がマシだ。
トウモロコシ畑から作物を盗み飢えをしのぐ、夜女たちと兵士は絶望の中で体を合わせる。女は梶を誘うが相手にしない、お前は亭主もちか?女は帰る当てもないという、、
梶は三千代の運命を考えていた
女は若い寺田について、あんたを怖がっているわよという
■ソ連兵の一団が来た、屋内から銃を構える梶たち、しかし女が飛び出し、もう戦争はやめてと叫ぶ、梶たちは銃を捨て投降した。
泣く寺田に、泣くな、終わったわけではない、始まったんだ
■飢えの中で徒歩行軍、寺田が倒れ梶は停止を命じると列は止まった。監視していた赤軍は通訳を介し状況を確認する。停止は許されなかった
捕虜収容所では関東軍の将校が捕虜のまとめ役だった。
食料も乏しく重労働、梶は寺田にじゃがいもの皮を拾わせる。
■寺田の体調が悪く、梶は休息させるがサボだと責められる。梶は赤軍の将校に窮状を訴える。
将校は、梶の前職を確認んし労務管理とは搾取だねという
梶の言葉を通訳は誤訳し、将校を侮辱したと受け止められる。
梶は鉄道線路の重労働に罰として就くことに。
将校は日本軍はドイツの次に劣悪だという。
敗戦後にも、ソ連兵に危害を加えたな?お前は戦争犯罪人だ
本国では民主化が起きるだろう
<💢以下ネタバレあり💢>
■桐原はちゃっかりと捕虜の管理者に収まっていた。梶への恨みから寺田を虐め抜き死に追いやった。今夜ここを出る、梶は決意した。桐原を呼び出すと鎖で殴打、クズ、死ね、、お前らを社会から一掃するには時間がかかりすぎる、最後は肥溜めに沈めて殺した。
■鉄条網をくぐり、収容所を抜け出した、朦朧としながら歩く
三千子、おれは君のところに歩いていくよ、乞食をしてでも
ある部落で饅頭を盗んだ、中国人から、こいつは日本人、盗人やろうと暴行を受ける。
雪山を放浪する、三千子、この饅頭が土産だおれはここまできた、もうすぐだよ。倒れた梶に雪が積もる
ーーーあらすじおわりーーー
🎥🎥🎥
⭐️さて、超重量級の名作を通しでみた❗️
完結編である第五部、第六部ではソ連侵攻後の攻防戦、というより敗走が描かれる。
この大長編は関東軍が勝手に満州で国宣言して地元中国人を虐待、ソ連侵攻で壊滅するという全く救いがない話だ、でも現代人としても事実として向き合うべき
⭐️仲代達矢の熱演が素晴らしい。中国人ソ連人も単なる背景ではなく人間的な奥行きを感じるあたりはさすが小林正樹。
悲惨な場面が多いけども端正な映像は人間の臨界点を静かに描写する。
⭐️関東軍敗残兵による同胞の日本人女性に対する非人道的な行い、ソ連兵の方がマシと避難民の女(高峰秀子)が言うほどだ。
避難している同胞に対してここまで酷いことができるのか、まさに鬼畜。
⭐️梶はヒューマニストなので工人の待遇改善とか新兵に虐待の無い教育など頑張るけども、最後は無力を感じるしかない終わり方。
梶の究極の問い。人間の条件とは何か?
人間が人間であるための条件、例えば”理性”はこの戦場では吹っ飛んでいる。敵兵だけでなく民間中国人や同胞避難民、友軍までも殺し合う異様な世界。
それでもヒューマニストである梶はギリギリ人間の条件を失わないように行為する。
しかしジレンマなのは、悪魔のような人間を目の前にしたときにそいつを殺すのかどうか。最後に梶はクズ人間に対して怒りの制裁を加え殺す。
⭐️梶の中で相当な葛藤があった場面だけど、見てるコッチとしては良くやった!と感情的には反射的に思ってしまうのも自分自身が恐ろしくもある。これが映画的カタルシスか、
人間の条件を逸脱することについて喝采してしまうというこれもまた人間。梶の感情の揺らぎは観客にまで揺さぶりをかけてくるのだ。
⭐️梶にとって満州とは何か?
本作で梶は日本へ帰還したいとは一切言わない、彼にとって満州国が我が祖国である。
関東軍はひどいが、満州国の理念はそこを故郷として思うほど信じていたのではないか。その点はこの映画の問題点だと思う。
関東軍の非道は描かれるが、満州国そのものへの批判的な視点は見られないのだ。
梶のヒューマニズムは満州国の理念、五族協和から来ているのだろうか?そこはわからない、
ただそうだとすると、現地人からすれば「お前ら勝手に人の国に入ってきて各民族で仲良くしましょう
って言われても、、そもそも入ってくんな」という気持ちだと思うが
⭐️ラストで物乞いになり饅頭を盗んで中国人に足蹴にされることで故郷としての満州という幻想は砕かれる。
雪山を彷徨するラストは名場面だと思うが、映画としての描き方が上手いだけに梶の悲劇の印象が強く
残り、満州侵略戦争そのもの非道さにはフォーカスされない。
⭐️なんとなくの印象だけど、映画人は満州に関してノスタルジーのようなものを感じているのかなと思うことがある。
『野火』でフィリピン戦線の悲劇をこれでもかと描いた”反戦派”の市川崑ですら『夜来香』では満州の拡大政策である華北の地へのノスタルジーを感じさせる。
小津の映画でも満州に渡る=開拓団的にややポジに描かれたりする。
ガチ左翼の内田吐夢も満州映画社で映画制作をしていたし。
⭐️敗戦日本の加害者性メンタリティの中で満州に関しては侵略者ソ連に対し祖国防衛を戦ったという記憶、五族協和のユートピア
満州の描き方にモヤモヤは残るけど超重量級の傑作であることは間違いない