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人間の條件 完結篇の小のレビュー・感想・評価

人間の條件 完結篇(1961年製作の映画)
4.8
『生誕100年 小林正樹映画祭 反骨の美学』にて6部作を連続鑑賞。その合計時間は9時間31分。午前11時頃から午後10時近くまで映画館に入りびたり。息つく間のない展開に退屈を感じるどころではなく、ひとつの部が終わるとすぐに次が観たくなる。とにかく凄い映画。

満州戦線に従軍した五味川純平氏の体験をもとにしたベストセラー小説が原作。召集免除を条件に満州の鉱山に赴任するも、やがて戦争に参加することになる主人公・梶を通じ、戦渦における人間性を描いた超大作。

大量の情報量にまだ未消化の部分はあり、もう一度観たいけど、全体を通した感想を(個別のあらすじなどは下の方にあります)。

ヒューマニストで妻を深く愛する梶は、人間を蔑ろに扱う戦争に疑いを抱いている。そして、ソ連のような社会主義が良いとは言わないけど、まだマシではないか、と思っている。

徴兵を回避できる仕事を選び、理不尽がまかり通る戦時中にあって、自分の管理下の仕事場では人間性を大切にしようと奮闘するものの、苦難の連続。あげくの果てに、自らの人間性を失いかねない危機に直面し、それは何とか回避したものの、結局、戦争にかり出される。

戦場はヒューマニストの信念がほとんど通用しないリアリストの世界。そんな中でも人間的に生きようと、必死にもがき続ける梶。しかし、梶も生きるためには非人間的な行為にも手を染めなければならない。

自分自身に苦悩しながらも、帰りを待つ妻のもとへ戻るため、必死に生き続ける梶。しかし、捕虜となったソ連も結局、日本軍と大差がないことがわかると社会主義への期待も消える。人間性を肌身離さず生きた梶の最後は…。

普通の人なら早々に心が折れて、思考停止し、大勢に従うような状況下でも、信念を曲げずにヒューマニストであり続ける梶。小林正樹監督が描き、仲代達也さんが演じることで、凄みが一段と際立つが、それ故に戦争がいかに救いのないものであるかを痛感する。

そして「人間の條件」とは何なのか。梶を通じて思うことは、自分の信念をやすやすと放棄しないという気構えを持つこと、そして愛する者(愛してくれる者)の存在を忘れないこと。

このことは今を生きる人にも通じると思う。誰かが虐めあったとき、梶のように振る舞えるだろうか。自分が愛し、愛してくれる人の存在を忘れずに、梶のように行動できるだろうか。

自分は、梶のように強くなれないことは間違いない。しかし行動はできなくても、気持ちを持ち続けること。これが最低限の「人間の條件」なのかもしれない。

<人生に一度、見ておくべき映画が『人間の條件』。まさに『人間の條件』。人間の条件は『人間の條件を見ること』>(町山智浩)。
(http://miyearnzzlabo.com/archives/29819)

【5・6部のあらすじなど】

ソ連国境で梶の隊は梶を含め3人を残して全滅した。今や梶の生きる目的は妻・美千子のもとに帰ること。梶をリーダーに南満州に向け、途中、避難民や敗残兵と合流しながらひたすら歩く梶たち。

ソ連兵のみならず、中国人民兵も殺さずには、進めない。そんな中でも、梶のヒューマニストとしての矜持はくすぶり続け、非人間的な行為には怒りを爆発させる。

とある集落で、梶たちは、思いもよらぬことからソ連に降伏する。連れて行かれたソ連の収容所では、途中追い出した桐原伍長が捕虜の管理者となっていた。

ある日梶は、捕虜の食料を確保するため、やむなくサボタージュするが、桐原伍長は意趣返しとばかりに、ソ連兵に告げ口する。尋問に正直に答える梶だったが、情状酌量の余地はなく、重労働の懲罰を受ける。日本の状況よりもマシだろうと思っていた社会主義国ソ連にも疑問を抱き始める梶。そして罰を終え戻ってくると、桐原が許すことのできない非人間的な行為をし、ソ連兵はそれ見て見ぬふりをしていた。

全員平等であるはずの社会主義に対するかすかな希望も打ち砕かれ、もはや希望はどこにもない。絶望した梶が直後にとった行動は、この映画唯一にして最大の溜飲を下げるシーンとも。

ラストは哀れというほかないが、梶は最後まで自らの信念を、人間性を、手放さなかった。アイヒマンが一方の極なら、梶はその正反対の極。どちらの極も知ることで、自分の立ち位置がわかるかもしれない。自分はややあっちよりかも…。
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