晴れない空の降らない雨

サスペリアの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

サスペリア(1977年製作の映画)
4.2
 強迫神経症的なシンメトリーの廊下とかナイフで鍵壊そうとするくだりとか『シャイニング』じゃんと思ったらこっちのほうが先だった。リメイク版に比べると俗悪趣味のこだわりやホラー演出、その他諸々分かりやすくてその意味では見やすかった。とくにタナー役アリダ・ヴァリの怪演が怖くてよかった。
 
 とにかくバレエ学校の真っ赤な外観から、最初の犠牲者が泊まる建物の内装から偏執的なこだわりようで、それが最後まで続くし、赤を中心とする幻想的な色彩効果に魅了され、観ていて飽きない。とはいえ、段々ととりあえず色盛りましたという感じがしてきたのも否定できず、過剰な装飾といい単なるキッチュを超えた美学がほしかった気もするが、ホラー映画だからキッチュでよいのだと言われればそれまで。
 奇怪なオブジェとかガーゴイルの彫刻とか、副校長室にあったビアズリー風の絵とか全体的に異教趣味が強調されているのも分かりやすい。また、ルーマニア出身の給仕はどうみても吸血鬼。音楽も同じで、東方的なメルヘンの雰囲気をまとっている。ピアニストが襲われるシーンに、古典主義建築物の屋根のワシ?の彫像があたかも飛んできたかのような素晴らしいショットがある。おそらく、こういった怪物のオブジェを通じて魔女は力を行使しているのだろう。自動ドアのアップとか水のアップとか、特に意味がなくても意味ありげになるのがホラー映画の有利なところかもしれない。
 
 それとグァダニーノ版が精神科医のキャラクターを掘り下げたのも分かるというか、本作では設定の解説役としてちょっと出てきただけだが(しかもそのためになぜか2人用意する無意味さ)、本作を観ていて精神科医という存在の重要性が逆にわかった。つまり、精神科医の起源は、魔女狩りが吹き荒れた時代に、魔女たちを何らかの病気だとして擁護した医師たちだってことを思い出したのだ。
 古代に遡ればヒポクラテスのように精神医学めいた試みもあるのだが、中世ヨーロッパでは全ての異常が悪魔憑きと見なされてきて、そのことに異を唱える人々がようやく近世に出てきた、という話。まぁ映画ではむしろ魔女や悪魔が実在する中世的世界観が正しく、すべてを合理主義的に解釈してしまう精神科医は間違っていることになるわけだが、この論点を発展させて、精神医学の権力というフーコー/フェミニズム的問題意識と結びつけたのがインテリ・グァダニーノ版だったと理解できる。