ダリオ・アルジェント監督によるジャッロ映画の極北であり、イタリアン・ホラーの芸術的到達点の一つではないでしょうか。そして、マリオ・バーヴァとジョージ・A・ロメロをつなげる架け橋だったりもします。
映画におけるジャッロを切り開いたのはマリオ・バーヴァ監督です。バーヴァ作品の特徴はそのままジャッロの特徴になります。1)独自の色彩センス、2)ゴシック趣味、3)顔芸の三つです。ダリオ・アルジェント監督はこれらの特徴をさらに極端に押し進めました。これに加えて4)独自の音響がダリオ・アルジェント監督ならではの要素となっています。
1)独自の色彩センス
元々のヨーロッパ人好みは淡い中間色です。マリオ・バーヴァ監督はこれを少し濃い中間色にすることで、上品さと奇抜さのバランスを取りました。それにカラーフィルターを使った照明で独自のジャッロな世界観を作りました。
ダリオ・アルジェント監督はさらに濃厚な色を好みました。原色より少し濃い色。具体的には血の色ですね。血のように濃い赤を中心としたカラーコーディネートになっているため、全体的に濃い色彩になっています。この色使いはデヴィッド・リンチの色使いでもあります。『ツインピークス』や『ブルーベルベット』がそうですよね。
マリオ・バーヴァ監督はカラーフィルターを控えめにアクセントとして使いましたが、ダリオ・アルジェント監督はカラーフィルターを主役にしました。むしろ、普通の照明がアクセントになっているくらいです。カラーフィルターを主役にすることで、画面全体が色の洪水となります。
2)ゴシック趣味
マリオ・バーヴァ監督のゴシック趣味は人形、墓地、建物、家具など小道具に現れていました。テーマとして「呪い」のような抽象的なゴスもありましたが、主役は小道具だったと思います。
ダリオ・アルジェント監督はゴシック趣味を抽象化しました。具体的には本作のゴス要素の中心である「魔女」ですよね。ゴシック趣味をテーマそのものにしてしまった。これもデヴィッド・リンチにかなり影響を与えていると思います。デヴィッド・リンチの場合はゴス要素を抽象化するだけでなく、隠蔽化しました。見えない方が怖いんですよ。墓場が画面にあるだけでは怖くない。モノはそれほど怖くない(バーヴァレヴェル)。抽象的な「魔女」も見えたら怖くない(アルジェントレヴェル)でしょ?
最近のホラー映画監督は「怖さ」の正体を見せないですよね。その方が怖いからです。これがゴスの隠蔽化です。ただ、隠蔽化するには抽象化しないといけない。その抽象化がダリオ・アルジェント監督の貢献だと思います。
3)顔芸
どれだけ怖さを顔で表すか「顔芸」もマリオ・バーヴァ監督の十八番で、ジャッロの特徴になったと思います。本作でも「顔芸」は健在でしたよね。具体的にはサラの顔芸。あれはなかなかのものでした!
4)独自の音響
映画ジャンルとしての「ジャッロ」の特徴として独自の音響が挙げられることが多いです。それはダリオ・アルジェント監督によるところが大きいと思います。
本作品でタッグを組んだのがイタリアのプログレバンドのゴブリンでした。ゴブリンが作り上げる音響が色彩とともにイメージづくりに貢献していますよね。
このダリオ・アルジェント&ゴブリンのコンビはジョージ・A・ロメロ監督作品『ゾンビ』でも発揮されることとなります。いわゆるアルジェント版『ゾンビ』ですね。