GreenT

ストレイト・ストーリーのGreenTのレビュー・感想・評価

ストレイト・ストーリー(1999年製作の映画)
4.0
恐ろしく退屈に感じる人もいると思いますが、私はこういう生活に憧れます。嵐が来たら、一晩中雷を見て過ごす。夜は、庭に寝っ転がって、満天の星を見て過ごす。犬はみんな放し飼いにされていて、家にあるものは全部自分で直して使う。

デヴィッド・リンチ作品なのに制作がディズニーなのにまず笑っちゃったのですが、リンチ監督がこの映画を「(自分の映画の中で)最も実験的な映画だった」ってのにもっと笑いました。タイトルの『ストレート・ストーリー』の通り、全くストレートな話なのに!

殺人事件もミステリーもないし、アンジェロ・バダラメンティの音楽も『ブロークバック・マウンテン』を思わせる、ちょっと悲しげで牧歌的で、リンチ作品の特徴とはかなり違うのですが、それでも時折、『ツイン・ピークス』でかかるような不気味な音響も流れたりして、それはやっぱり、主人公のおじいさん・アルビンは、平和そうでも老いや貧困、または若いときの辛い想い出も抱えて生きているってことなのだろうなと思いました。

アルビンは年のせいで目も悪くなり、脚も悪くなり、医者にタバコを止めないとシリアスなことになるよと言われる。同じ頃に、弟のライルが心臓発作で倒れたとの知らせが入る。

でもまだ74歳なんだよね〜設定は。今の74歳ってあんなに衰えてないかも。私には80歳過ぎくらいに見えました。いずれにしろ、車も運転できない、お金もないアルビンは、人が歩くよりも遅いんじゃないかというような芝刈り機で、隣の州に住む弟に会いに行くことを決意する。

このめちゃくちゃゆっくりな芝刈り機が、ロングショットで全く進んでないところが笑えるのですが、なんかこのゆっくり感がいい。途中、サイクリングをしている人たちが追い越していくんだけど、現代では自転車でさえ、エクササイズや競争の要素が強く、車より怖い存在にさえ思える。

いわゆるロードムービーなので、道すがらいろんな人に会い、アルビンのおじいさんとしての人生訓に心を打たれたり、アルビンも若い人に教えられるというか、若い人と話すことによって自分の内面に気が付くような瞬間もあって、めちゃスローなんだけど全く退屈も寝落ちもしないで見てました。

旅先で会う人がみんないい人なんですけど、中でも良かったのは、やっぱり老人同士で気が合うのか、旅先で出会ったおじいさんが飲みに誘ってくれるんですけど、そこでアルビンは、実は長年アル中だったことが分かる。でもそれは、戦争で受けたPTSDのせいなんだけど、アルビンの世代では「PTSD」なんて言葉もなかったようで、もう一人のおじいさんが「みんな浴びるように酒を飲んでいた」って言うのを聞いて、やっぱり戦争が心に残す傷って大きいなあと思わされました。

最後はネタバレになるので、コメント欄で!
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