垂直落下式サミング

路上のソリストの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

路上のソリスト(2009年製作の映画)
3.6
音楽の才能をもつ統合失調症の路上生活者ナサニエルを見出し、記事にする記者のはなし。最初は記者ロペスは紙面を飾るためのネタとして彼に興味を持っただけだったが、それはやがて友情に変っていく。ナサニエルの前にしゃがみこんだロペスが彼のチェロの演奏を聴いたシーンがとても好きだ。上を見上げれば華やかなのに、視線を下に落とせばどこまでも寒々しい都会の底流で、自動車が行き交う道端にこのような美しい調べが生まれるのかと忘れ難いシーンになった。
ロペスの気持ちが、憐憫から尊敬に変ったとき、ナサニエルは珍奇な浮浪者ではなくなる。この友情の在り方がまた複雑で、この関係が健全な友情だと言いきることはできないが、見方によってはこれこそ真に心が通じた友情なのだとも思わされる。
とは言っても、きっとナサニエルのような電波系の糖質と付き合っていくのは難しいのだと、単純なサクセスストーリーで終わらせないのが品のいい映画だったと思う。
私の家の近くにも町行く人にやたら声をかける春夏秋冬キャミソールで外を出歩くオバサンがいたが、彼女が障害者だろうが精神病だろうが何だろうがそんなの俺には関係ないし、変に絡んで来られると迷惑だし、気持ち悪いから極力かかわり合いになりたくない。ナサニエルが神だとか愛だとか言い出したあたりでちょっと逃げ腰になる気持ちがなんとなくわかる。