mimitakoyaki

1984のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

1984(1956年製作の映画)
3.8
原作は1948年に執筆されたジョージ・オーウェルの小説。
トランプ政権が発足してから、この小説が再び脚光を浴びてるなんて話を聞き、高校生の息子が小説を読んでたので、1956年版の今作を見てみることにしました。

1984年ロンドンが舞台。
世界は3つの全体主義国家が支配し、戦争に明け暮れているという、当時からすると近未来の話です。

国民は、省庁など国家機関で働く外局員と一般労働者で服装も決められ、街のいたるところに設置されたテレスクリーンという監視カメラによって、常に国民の発言や行動が厳しく監視されて、独裁者ビッグブラザーに反対する言動が発覚すると、即座に思想警察に逮捕拘留され、拷問や洗脳をされるという恐ろしい世界が描かれています。

街中に貼られたビッグブラザーのポスターには「戦争は平和」「自由は服従」というスローガンとともに「Big Brother is watching you」と書かれていて、極度の監視・密告社会なので疑心暗鬼になり人を信用できないのです。

人々には言論や表現、思想信条だけでなく恋愛さえも自由がなく、主人公のスミスは家の中のテレスクリーンの死角で見つからないようにこっそりと日記を書いたり、恋人と会ったりすることすら命がけです。

スミスは真理省で働いていて、歴史資料や記事を改ざんするのが仕事です。
自国の不都合な歴史を修正してなかったことにしたり、美化や正当化したり、まるで嘘をついたり…
あれ?これって映画だけの話じゃないよね?ってものすごく今のアメリカや日本で起きてることに当てはまってて怖かったです。

あと、憎悪週間なんてのもあって、敵国へのヘイトや自国への愛国心を煽り立てて、国民は街頭の大型モニターの前に集まり集団ヒステリーの様相で、ビッグブラザーへの忠誠を誓ってたりするんですよね。

情報統制、デマを垂れ流すフェイクニュース、プロバガンダ、大本営発表…
メディアが権力の監視という本来の目的を果たさず国家の宣伝機関となってしまう恐ろしさもなんだか身近に感じるところです。

今作はソ連や東欧の全体主義をイメージしてるみたいですが、殺伐とした街の風景や人々の熱狂はナチスの独裁時代のようです。

敵国への憎悪を煽りつつ愛国心を高めるなんて、ホットな話題としては森友学園の例の幼稚園を思い浮かべてしまいます。
現総理がそういうことを素晴らしい教育だと共鳴してるだなんて、何の悪い冗談かと思いますが、今作のようないかにもなディストピアと今の日本は雰囲気などは全く違ってても、国民の監視や密告するシステムである共謀罪なんかも早く成立させたいようだし、映画や小説の話として笑ってられない状況にまで来てることが恐ろしくなりました。

「シチズンフォー」や「スノーデン」で描かれてたように、アメリカではテロ対策という名目で世界の人々の通話やネットが監視され、情報収集が行われるという違法なプライバシー侵害が国家によってなされていますが、この映画で描かれているようなナチスや北朝鮮みたいになっていなくても、システムとしては出来上がってるというのがやはり怖いです。

街中にある監視カメラだって防犯目的として今はあるけど、それが国家が恣意的に国民を監視するためにだって使えるようになるわけですから。

1956年の作品なので、美術的にはかなりチープではありますが、全体主義社会の恐怖はすごく伝わったし、ここで描かれてる国民を支配するための国家の行いは今の時代とも通じているのをとても感じて考えさせられました。

国家反逆として逮捕されたスミスが受ける洗脳教育のやり方や、愛する人を裏切って心を挫くためのやり方が、え、それ?ってちょっと面白くて笑えたのですが、頭に電極をつけられたスミスが映るモニターの前に党の幹部が立ったら、ちょうどスミスの顔が隠れて、まるで党幹部の頭に電極が繋がってるように見える映し方は、洗脳されてるのは党幹部の方という皮肉のように思えて、そんな表現も面白かったです。

40
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