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エンジェルのakrutmのレビュー・感想・評価

エンジェル(2007年製作の映画)
2.8
恋愛小説家として成功し、上流階級の仲間入りをする女性の一生を描いた、フランソワ・オゾン監督の恋愛ドラマ映画。イギリスの有名作家であるエリザベス・テイラー(同名の女優ではない)の代表作である同名小説の映画化作品で、フランソワ・オゾン監督が初めて手掛けた英語による映画でもある。主役のエンジェルを演じたロモーラ・ガライにとって、本作の演技が高く評価された出世作である。

フランソワ・オゾン監督の作品は大好きだし、彼の作品は大きく外れることはないのだが、残念ながら本作は完全に失敗である。何が失敗かというと、映画(ストーリー)のポイント・焦点が全くないのである。エリザベス・テイラーの小説は読んでいないが、まず間違いなく小説の中で描かれているのは、物書きを通じて庶民出身の少女が上流階級になるという成り上がり物語や、その後の皮肉な運命であるはず。だが、オゾン監督が意図して描かなかったのか、それとも小説の意図を理解できなかったのか、それをきちんと描かなかった。

映画の最初のほうでは、近所にあるお屋敷「パラダイス」への憧れやそこで給仕として働いていた叔母への蔑みなど、エンジェルの上流階級への強い希求心が仄めかされているが、小説家として成功してからは、中途半端なままになってしまう。貴族の青年エスメへの打算的な恋などは全く描かれず、単純なロマンスに堕してしまっている。これらのせいで、見ているほうはいったい何を表現したいのかが全くわからず、主人公に共感(や反発)できないままに映画が終わってしまうのである。これでは、映画として完全に失敗である。ロモーラ・ガライの演技は良かっただけに、とても残念。それから、背画像の安っぽい合成も意味不明。エリザベス・テイラーは草葉の陰で悲しんでいることだろう。
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