もものけ

チャイナ・シンドロームのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

チャイナ・シンドローム(1979年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

テレビリポーターのキンバリーは、局の指示で原子力発電所へフリーのカメラマン リチャード達と共に取材中、慌てふためく職員達を目撃して一抹の不安を掻き立てられた。
リチャードは、取材禁止であることに関わらず撮影をしていたフィルムを公表しようと局に掛け合うが、何かの力が働き重罪とされて放映を見送られることに憤慨し、独自に行動を起こそうと動き始めるのだが…。


感想。
チェルノブイリ原発事故よりも前に製作されており、まだ未知の原子力発電という分野が安全かつ恩恵が高いと言われている時代に、ここまで管理と危険さを鋭く抉り出した作品で、チェルノブイリと福島を知っている世代からは、その先に何が起こるか分かっているので鑑賞すると、そのリアルな演出により一層恐怖を感じられて、謎の陰謀に追い詰められる主人公達のサスペンスな展開が、アメリカン・ニューシネマのように描かれている傑作でもありました。

危うくメルトダウンしそうになる冒頭のシーンは、福島原発事故そのものの光景であり、原子力発電というものが危険と隣り合わせであった事態を、当時に想像しているのは驚きでもある内容です。
"ギリギリだったが、なんとかなった"と、その先に起きる事態がまだ想像でしかない時代を背景に、職員がほぼ素人集団でありますが、それもそのはず原子力発電事故が、どんなものか分からず起きる事象も対処方法が決まってるわけでもない、いわば手探りで運営している時代であるので、知識がある人間がいるわけでもありませんので、当然として単に選ばれた人選でエキスパートが担当者になるわけでもありません。
そういった背景を事情聴取される職員が上司と話すシーンなどでも伺え、対応が一秒でも遅いと終了する恐ろしい設備を、のんきに働く職員達の演出で告発しています。
計器が故障しており、実際の水位と全く違う針を指すシーンは、ドキドキさせられるショッキングな演出でした。
とはいえ、現代では事故を知っているからこそ言えることであり、当時は近未来的な告発内容で大袈裟な雰囲気だったのでしょうか、当時に鑑賞していれば、また違った感想になっかもしれない恐ろしさもあります。

製作をマイケル・ダグラスが努めるなど、社会派の作品を手掛けていたイメージがなかったのですが、キャスティングもこなして良い演技で魅せてくれます。
個人的には「バタリアン」で面白すぎる演技を見せてくれた、ジェームズ・カレンの名脇役が好きで、「チャイナ・シンドローム」でも味のあるキャラクターとして名脇役を演じてくれていて安心できました。

この「チャイナ・シンドローム」という題名は、メルトスルーした核燃料がアメリカから重量で反対側にある中国まで到達するブラックジョークであり、"〜シンドローム"という題名が流行った時代でもある名題の一つでもあります。

作品で戦慄したのは、ほぼ全ての状況において福島原発事故と酷似した内容であることです。
SF映画で、ここまで予期されるということは、既に予想を超えて分かっていたということでしょうか、鑑賞しながら開いた口が塞がらない状況でした。
電力会社という組織と、初期コストこそ莫大でも低コストで莫大な利益を生む電力を維持するために、欺瞞に満ち溢れた運営をする企業の危うさが、事故が起きてしまった現代からみると、分かっていたのにずさんな管理をしているようにも見て取れる内容から、ここまでの告発内容を作品にして、よくお蔵入りにされなかったと思うほど、未来を予想したかのような展開です。

原子力発電所操業問題を殺人にまで発展させる陰謀の演出はスリリングです。
単なる社会派ドラマとしていなく、なかなか派手なカー・スタントのアクション性、立て籠もり籠城戦など盛り込んで、アメリカ作品としての面白さを詰め込んでおります。

ラストシーンでは、真相を語ろうとする者を口封じして死人に口無し状態で終えようとする企業。
ゴデルの主張の通りに事故は起きますが、このシーンは福島原発事故を知っているとより戦慄の恐怖を感じて、心臓が張り裂けそうになる思いです。
しかし大事には至らず、結果オーライで終わり、リポートするキンバリーの思いを最後に突然のエンドロールとなりますが、ここで一切の音声が途絶えてエンドロールが流れる場面は、ドキュメンタリーを観ているように心臓がバクバクいいながらの静寂でして、作り込みのうまさが伺えます。
まるで世界の崩壊のような終わり方です。

社会派でありながらハラハラドキドキするスリラーとして、非常に考えさせられる作品に、4点を付けさせていただきました!
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