クレセント

マレーナのクレセントのレビュー・感想・評価

マレーナ(2000年製作の映画)
4.0
少年は若く美しい未亡人に恋をした。彼女のことは何でも知っていたかった。だからいつもこっそりと見つめていた。そして早く自分が一人前の男になることだけを夢見ていた。街の男たちはみな、彼女に妄想を抱いていた。女たちは羨望と嫉妬によってたかって陰口をたたいていた。ところがある時、戦死した夫が生きて帰ってきた。街の男たちの出迎えは冷ややかだった。せせら笑う男もいた。あんたの妻は娼婦だぜ。夫は掴みかかったが簡単に押し倒された。少年はそっと彼の妻の行方を教えてあげた。

それから一年たった。もう街の誰もが二人を忘れかけていた。そこに妻と夫が街に戻ってきた。人々は複雑な思いで二人を見つめた。中には悔恨の情を見せる女たちがいた。いまだに色目遣いを見せる男たちもいた。妻と夫は腕を組みまっすぐ歩いた。表情は顔に出さなかった。それは怒っているようにも見えた。翌日、妻は市場に行った。店の女たちや買い物客は道を開けた。「ボンジョルノ」。店の女が彼女に声をかけた。ほかの女たちも口々にあいさつをした。みんな笑顔だった。妻もつられてボンジョルノと答えた。女たちはまるで何もなかったかのように近寄ってきた。あの頃はただ憎らしかった。しかし今では年を取り、しわが増えた彼女を見て、女たちから嫉妬心が消えていた。少年は一部始終を見ていた。そして何故か、その表情は自分だけがすべてを知っているかのように誇らしかった。戦争の傷跡は深い。人々の心は荒廃し、皆して弱いものを虐めた。さらし者にした。それが規律を守るために許されたことだった。この作品の怖さはそこを炙り出したところにあった。
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