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ヤンヤン 夏の想い出のHKのレビュー・感想・評価

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)
4.8
『クーリンチェ殺人事件』『恐怖分子』などのエドワード・ヤン監督による台湾映画。キャストはジョナサン・チャン、ケリー・リー、イッセー尾形などなど

台北の文教地区にある高級マンションに暮らす5人家族がいた。彼らは母親の弟の結婚式の準備をしていたが、その際に弟の元カノが式準備の邪魔にきて不愉快に思った祖母は帰ってしまう。その後、祖母が脳卒中で倒れたことにより5人の家族の運命が動き始める。

説話だけ見たら、物凄い不幸な出来事の積み重ねで不条理劇にでも出来るこの映画を、エドワードヤンはものの見事にフィックスと清涼さでとても見ていて心が晴れる作品に仕上げた。本当に凄いと思います。

恐らく世界の映画を比較してもダントツで美しいと言っても過言ではない鏡面反射を利用したショットが楽しめる。オフィスワークの窓越しに起きる二者間の対話が素晴らしい。

そして、アディが産まれた赤ちゃんをカメラで撮る瞬間を収めたショットはとても美しい。あそこの鏡面反射は本当にどんな映像作品でも拝めないくらいに彼の心情の喜びを映し出してる。

絵画的な美しさというよりも、本当に小津が描いたかのような映画的な美しさとか、人間の移動を平行編集でとにかく違和感なくつなげることによって起こる映像神秘というのが良かった。

ヤンヤンが逃げ回るシーンとかで監視カメラを使ったりしても違和感ないのはやはりすごい。あそこのショットは北野武の「HANA-BI」みたいなものを感じた。

個人的に一番好きなショットはファティとティンティンがラブホテル行く前の鉄橋の下の横断歩道での会話シーン。あそこの信号機を利用しながら青から赤に変わって画面右側から左折した車が二つ向き合った所でカットする所は、素直に心打たれた。彼等の関係性を示しているようだった。

イッセー尾形の朴訥とした所がとても良い。それでいて彼のカードマジックをワンカットで見せるのもやはり味がある。

他にも日本に元カノと一緒に帰ってきたNJが旅館で障子越しに影が映るショットがやはり美しかったですね。なんかどこを撮っても名シーンに見える。

プールを撮る際にも水面反射を利用してすごい清涼感があるのが良いですね。

それでいて、物語はお婆ちゃんの死によって登場人物が悲喜こもごもの事態の中、運命に流され彷徨い歩くような様子を描く。そんな彼等の持っている影を正面から向き合うために、彼等の後頭部を撮るヤンヤンに泣ける。コンドームで遊ぶ無邪気さよ。クレヨンしんちゃんかな。

植物状態のお婆ちゃんに家族皆が罪の意識を抱えながらもお婆ちゃんを励まそうとする所をクローズアップで撮るのが良かった。あそこでそこまでエモーショナルにならないのも良いですね。

結婚式で始まり、お葬式で終わる。素晴らしい映画でした。なんか本当に人生の悲喜こもごもを見事に小津的に撮った傑作だと思いましたね。見れて良かったと思います。エドワードヤンの映画もっと見て行きたいですね。

殺人の現場を見せずに、ゲーム画面で隠喩するショットも個人的には好き。
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