垂直落下式サミング

28週後...の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

28週後...(2007年製作の映画)
4.5
『28日後...』の続編。前作は、アクションがもさもさしていて、走るゾンビというアクション映えする題材をうまく扱えていなかったと思うが、今回は撮影がダイナミックでかなりよかった。
映像がやたらとぐらぐら揺れるのは、この頃の流行りだったっけか。ハンディカムはあんまり好きな演出じゃないけれど、この映画では、みんな必死に生き延びようと頑張っているし、ゾンビたちの挙動がパワー系なため、素人撮影のような右も左も上も下もわからない臨場感の出し方は好ましい。
本作のもうひとつの特徴は、軍と政府の働きによってゾンビを殺し尽くして、一先ずはパンデミックの押さえ込みに成功した世界が舞台であるということ。したがって、生き残った人々への衣食住の提供や、民間人の安全確保、ウイルスの研究など、復興に向かう社会のほうに主点がおかれている。
冒頭で描かれるのは、緊急事態の只中。おそらく時系列的には前作の直後、感染者たちから身を隠すため、家のなかで巣籠もり生活をする生存者たちの姿に物語がフォーカスしていく。
ロバート・カーライルたちが、もの音を立てずに、ひっそりと生活して感染者たちをやり過ごしているが、ある日、ついに家のなかに押し入られる。その危機的状況において、彼は我が身かわいさに奥さんを見殺しにして逃げ出してしまう。
この男の胸中を想像しながら物語をみていると、なかなか興味深かった。中盤で子供たちに再開したとき、あと少し自分に勇気があれば妻を救えたかもしれないのに、「どうにもならなかった」とか「なんとか戻ろうとしたんだ」と、言い訳する様子がせつない。
本当は目の前で見殺しにしているし、一目散に駆け出して自分だけ助かっていたのに、子供たちに許しを求めてしまう。この場面では、過去の回想が画面にフラッシュバックして、彼の後悔と情けなさを際立たせていたのが、意地悪でとてもよかった。
あまり好きな俳優ではなかったが、このロバート・カーライル氏、なかなかやる奴だ。再会した妻を前にして、死んだものだと思っていた彼女が生きていて嬉しいのだけど、本当は見殺しにしたことを怒っているんじゃないかと、本来は軽口を交わし合うような夫婦だった彼女とのあいだにある愛を信じきれずに、探り探り…。衰弱した彼女が口を開き言葉を返すまで、不安でまともに話すことができない。この複雑な感情を見事に演じている。腕のある俳優だと思った。
こんな絶望的な状況下におかれていても、人が考えているのは、とりあえず目の前の相手に嫌われたくないとか、その程度のこと。相手に許されたい。存在を肯定されたい。人の人らしい本質が、ここにある。
そんで、ゾンビ化して襲ってくるときの青白い顔で口から血を滴らせる風貌がまたいい。まるで意思をもっているかのように子供たちを狙ってくる挙動や、夜中や地下で待ち構えていて明るい場所には登場しないなど、それらはゾンビ映画のさらに元ネタの吸血鬼ドラキュラのような雰囲気。
あとは、誰もいないロンドンの町のなかを、姉弟がスクーターに乗って走っていく場面も、終末感があってすごくよかった。人のいない都会って、それだけでショッキング。YouTubeで駅前のライブカメラ配信をよく見たりするんだけど、ごちゃごちゃとごった返してる時間帯よりも、人のまばらな明朝や真夜中のほうが好きだ。通勤ラッシュなんて絵になりすぎてつまらないよ。