映画ネズミ

28週後...の映画ネズミのレビュー・感想・評価

28週後...(2007年製作の映画)
4.7
向いている人:①前作を見た人
       ②グロ描写が大丈夫な人

 イギリスでゾンビ感染が広がった。ドンとアリスの夫妻は、都会から離れ、郊外の一軒家に逃げ込んでいた。すると、そこにもゾンビが襲撃。ドンは襲われるアリスを見捨てて逃げるしかなかった。28週後。ロンドンはアメリカ軍主導のもと復興が進み、ドンは子供たち(タミーとアンディ)と再会する。ドンは、アリスはゾンビに襲われて死んだと告げるが……。

 『28日後・・・』から続く、全力疾走系・パンデミック系ゾンビ映画です。

 前作が、人間性への一抹の希望を示して、温かい交流を描いて終わりましたが、本作は目を覚まさせるように、「温かい交流」がぶち壊される絶望的な展開から始まります。

 さっそく、『28日後・・・』のクライマックスで流れたテーマ曲とともに、感染者が四方八方から全力疾走で追いかけてきます。この映画の世界には絶対住みたくない! 血まみれの顔で全力疾走するのだけはやめて!!

 『28日後・・・』の大ヒットにより予算が増えたのか、普通の映画用のカメラで撮影され、前作よりもずっと映画らしい画面になっています。

 予算が増えたのか、アクションシーンも派手になっています。軍隊とゾンビの戦いもありますし、ヘリコプターでゾンビの大軍に突進する、豪快なシーンもあります。

 キャストも、『アベンジャーズ』のホークアイことジェレミー・レナーをはじめ、アメリカ映画でよく見かけるキャストが増えています。

 前作と同じく、「家族」が1つのテーマになっているのですが、前作が「正気と狂気の狭間」をテーマにしていたのに対し、本作は「愛・善意」がテーマになっていると思います。

 序盤で、親を亡くして隠れ家を訪れる子供を、中に入れる選択をするアリス。
 子供たちを気遣い、母親の末路について嘘をつくドン。
 死んだ母親の姿を記憶にとどめたいと、ある行動に出るタミーとアンディ。
 子供たちを守りながら、地獄と化した街から脱出を図るドイル軍曹とスカーレット少佐。

 登場人物の行動の動機は、「愛」なのです。
 しかし、この映画では、「愛」は迫りくる危機に対する「隙」となり、事態はみるみるうちに悪化していきます。この監督、家族に何か恨みでもあるのか? というくらい、ヒトデナシな展開のつるべ打ちです。
 振り返って考えてしまいます。自分だったらどうするか。そして、キャラクターたちに、他の選択肢はあったのか。前作のテーマとも絡んできます。

 理性的に考えれば、誰であろうが家に入れちゃダメです。母親を見捨てて逃げたことをきちんと話すべきです。過去を捨て、他人を見捨てて、自分だけが助かる道を選んだ方がずっと楽だし、安全です。

 でも、そんなことできますか? 目の前に助けを求める人がいるのに、見殺しにできますか? 愛する人が悲しむと分かっていて、残酷な真実を伝えることができますか? 感染していない子供を、みすみす殺させることができますか?

 理性的だけど非人間的な選択と、狂っているけど人間的な選択。あなたはどちらを選びますか?
 前作と共に、本作も、見る人を試している気がします。ハリウッド映画とは違った、「家族」の描き方でした。

 私は、より見る者への問いがきつくなっている意味で、またスケールアップして見せ場も増えている意味で、前作よりも、本作の方が好きです。
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