きえ

オール・アバウト・マイ・マザーのきえのレビュー・感想・評価

4.0
WOWOWでペドロ・アルモドバル監督作品を立て続けに見た。まず1本目が世界の映画賞を総ナメにしたこの作品。かなり昔に見た事があったけど薄れてるとこもあったので、2度目ながら前回同様のインパクトを持って楽しむ事が出来た。世間評価は二分するだろうけど私はペドロ・アルモドバル監督の独特な世界観が好きだ。

監督の言葉を借りればこの作品は
女優を演じた女優たち、
すべての演ずる女たち、
女になった男たち、
母になりたい人々、
そして私の母に捧げる
との事らしい。

ペドロ監督からは常に母なる存在への愛とリスペクトを感じる。つまりそれは母になる可能性を秘めた女性へのリスペクトでもあり、この作品の後に発表された『トーク・トゥー・ハー』(未見)『ボンベール』と共に女性賛歌3部作として括られている。ペドロ作品に見られる母性を主軸にした物語はだからどんなに奇抜でも私の心を捉えるのだと思う。

この物語もまさにそう。愛する息子を失うと言う母親として最大の悲しみを背負った女が様々な人々との出会いを通して希望を取り戻す迄をリアリティなどを超えた創造性の中で映画的に描いていく。

あらすじだけ見ればシリアスだけど、臓器移植、同性愛、トランスジェンダー、ドラッグ、エイズ… とマイノリティ要素てんこ盛りな登場人物達のストーリーが縦横無尽に割り込んでくる奇想天外さは映画界のピカソと呼ぶ以外に的確な表現が見当たらない。

シリアスかと思えばコミカルに、社会派かと思えばメロドラマに、掴み所のない中に一貫するのは母なる生き物の悲哀と滑稽さと寛容さと逞しさを映し出している事。そもそも母親なんて滑稽な存在で愛する子供の血を全身に浴びようが吐瀉物を浴びようがビクともしない。愛する事はこの上なく滑稽でだからこそ人として愛しい感情なのだとペドロ監督の声がする。

とは言え男性だと奇想天外な展開だけが印象付いて理解不能な作品に終わる可能性は高いとも思う。

この作品には2つの名画が引用されている。1つは主人公マヌエラにとって思い入れのある『欲望と言う名の電車』が舞台劇として登場する。そしてもう1つは『イヴの総て』。ひょんな事から舞台劇の代役を務める事となったマヌエラを皮肉る例えとして持ち出される。この2つの名画は"落ちていく女"と"昇っていく女"が描かれた点において対照的だ。息子を突然失い精神を空にし落ちかけたマヌエラが巡り合わせの妙によって母なる代役を手にし前向きに上昇していくストーリーを上手く表している。

全般に渡ってツッコミどころもあるし、そんな偶然ないよってなところもあるし、てんこ盛り感も半端ないけど、それでも私はこの作品から感銘を受け、何度見ても見入ってしまう。これがペドロ・アルモドバル作品の不思議な魅力なのだ。

更にもう一つの魅力は色彩。元々スペインが好きな事もあるけど情熱の国には原色が映える。特に赤。ペドロ監督の赤の使い方には引き込まれる。情熱の赤、血の赤、それは命の象徴でもあり女の象徴でもある。命を生み出す性である女性への愛の賛歌ここにあり!
きえ

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