みおこし

タイタスのみおこしのレビュー・感想・評価

タイタス(1999年製作の映画)
3.9
1週間の有休が終わり、明日から社会復帰というタイミングで観る映画ではありませんでした(笑)。知る人ぞ知る「シェークスピア作品の中で最もグロテスクな作品」の映画化にして、ミュージカル『ライオン・キング』の演出家で知られるジュリー・テイモアが手掛けた衝撃作。

古代ローマの武将タイタスは、ゴート族との戦いを終えて凱旋する。連れ帰ったゴート族の女王タモラの長男を処刑したことで彼女の恨みを買い、想像を絶する報復を受ける。全てを失ったタイタスもまた恐ろしい復讐の計画を企てるのだった...。

いやーーー、あまりの衝撃に終始口を開けたまま見入ってしまいました。人間は本当に度肝を抜かれた時「すごい」の一言しか出なくなるんですね、本当にこれはすごい作品です(笑)。このジャンルの幅広さ、シェークスピアがなぜ天才と謳われるのか本作を観れば一瞬にして答えが分かります。まさに血で血を洗う抗争、人間の意地と狂気のぶつかり合いを真っ向から描いたストーリー。舞台版や書籍で親しんでもこのグロさは伝わるはずなのに、本作はそれをまさかの映像化。最近のスプラッターやホラー映画よりもよっぽど目を覆いたくなるグロさに言葉を失います。
本作には心の美しい人間は一人も出て来ません!みんな復讐に燃え、自らの目的のためならどんな手段も厭わない本物の極悪人ばかり。とはいえ、見方を変えれば怒って当然のことをそれぞれされているのである意味こうなっても仕方ないのかなと...。しかし『スリー・ビルボード』でもこのテーマが掲げられていましたが、復讐は負の連鎖しか結局は生まないもの。本作はその「負の連鎖」を極限まで描いている点がまた秀逸。

この骨肉の争いを演じるのがまたクセのある豪華キャストだから尚更すごい...!アンソニー・ホプキンス、ジェシカ・ラングは言わずもがな、特に際立っていたのはサターナイナス役のアラン・カミングと、アーロン役のハリー・J・レノックス。前者のヒステリックな皇帝役も、後者の極悪非道な悪魔役も鳥肌モノの一世一代の名演技なので必見です。全員の【怪演】に引き込まれ、あの伝説のラストシーンは思わず「うわあああ...!!」と声が出てしまうくらいにはショッキングでした(笑)。

メイキングを見て、ジュリー・テイモア監督のバイタリティというか、センスというか、とにかくこんな大作をここまでアグレシッブに描き切る才能に圧倒されました。
時代設定はローマですが、『ジーザス・クライスト・スーパースター』のように、現代的要素と異国の文化が入り混じった不思議な世界が再現されています。BGMはロックとジャズが混じり、人々はバイクや車を馬と組み合わせて乗り、放蕩息子たちが遊びふけっているのは最新のピンボールマシンやゲーム機。まさに舞台芸術を彷彿とさせるこの斬新すぎる演出。とにかくこれがカッコいい...!衣装も人物の心情に合わせ、前半から後半にかけて、黒から赤、白へと次第に変化しているんだとか。

目を背けたくなる描写も多々あるし、とにかくひどい話なのでキツい人には本当にキツいと思うのですが、それを凌駕する圧倒的なドラマ性と芸術性を誇る傑作。観るのにかなりの体力を要するので覚悟して挑みましたが、ある意味一生忘れられない映像体験になりました...!シェークスピア劇の映像化の中でも、おそらく類を見ない作品なので是非みなさんご覧ください。
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