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ポストマンのsleepyのレビュー・感想・評価

ポストマン(1997年製作の映画)
4.0
コスナーの描く国づくりの神話であり、南北戦争 ****


原題:The Post Man、97年、177分。コスナー監督兼任。都市文明が崩壊した2013年、アメリカも例外ではなく、時計を200年ぐらい巻き戻されたような世界。合衆国政府崩壊。各地でコミュニティを細々と立ち上げる者、地域を暴力と死で服従させ、支配者になろうとする者。コスナーは偶然から、衣食を得るために、政府崩壊前の郵便配達夫(ポストマン)になりすまして「郵便ルートが復活している」と嘘をついて生き延びてゆく。コスナーの過去がへぼ役者である点がトリックスターを思わせて面白い。嘘が図らずも人々を喜ばせ、希望を与える。その希望とは繋がるということであり、「ふりをする」ことが再び世界を構築する。

コスナーが良くいえば朴訥、悪くいえばいきあたりばったりの適当男であり、コスナーをカッコよく見せるための映画ではない。また、ケンシロウや「マッドマックス2」にしていないことは、しばらく観ていればわかる。スペクタクルは目指さすどちらかというとこじんまりしたローカル映画。本作は西部劇の亜種ともいえ、某サイトですでに指摘されているように南北戦争をなぞっている。近未来SFアクションではなく、国づくりの神話を持たないアメリカの神話を目指したようなところがあり、ファンタジーともいえる。ここを見損なっては本作への理解は及ばない。

2010年以降の米大作映画(ビジュアルが貧疎)の100倍面白く、質感がある。コスナーの「この映画を作らねば」という思いが詰まっている。これだけの熱意を感じさせる送り手がミレニアム以降の大手聖林スタジオにどれだけ居るか。(ごく一部の監督を除いて)今の聖林は真似っこばかりの映画。これは原作があるかないかとは全然関係ない話。近時聖林映画のような貧乏ゆすり映画、要点・筋だけ言ったような映画と違う。盛り上がりもオチも捻りも別に映画に必要ではない。映画は最低限の筋が伝わればいいというものではなく、安易にここはいらんなどと言えない。コスナーの熱意を表すにはこのテンポが必要だった。実感ある印象的なシーンやショットゆったり味わうことができた。手紙、フイルム映画、シェイクスピア・・。映画はまあそれでいい。

そして気高く芯が強い役柄のオリヴィア・ウィリアムズがとてもとても美しいことを付け加える。他人が作った権威であるラジー賞とか既存の評価とかどうでもいい。至らないところあり、まだ良くなる気はするけど自分の目と心で、丁寧に作られた本作に触れて欲しいと思う。

余談:少し気になったのは古き良きアメリカ建国・北軍万歳を言いたいのではないかということ。しかし必ずしもそうではないようだ。どのような国も多様であり、分断されず、男も女も皮膚の色も民族も関係なくコミュニティは作られ、生まれ変わるということに帰着するのではないか。

★オリジナルデータ:
The Post Man, US, 1997, 製作Tig Productions, WB・配給WB, 177min. Color、オリジナル・アスペクト比(もちろん劇場上映時比を指す)2.25:1 or 2.39:1, Panavision(anamorphic), ネガ、ポジ35mm
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