小学校3年生の時、カズミという女の子が転校してきた
お父さん(確かタクシー会社勤務)の実家がうちの近所にあり、そこで暮らすことになったからだった
街の香りがする子で、ませていて鼻っ柱が強かった
彼女が放つ他の女の子にない独特の空気にどうもなじめず、初対面でニガテ意識を覚えた僕はあからさまに彼女を避けた
フォークダンスでペアになっても手を握ろうとしない僕を、口をへの字にして彼女はにらみつけてきた
その表情は今にも泣き出しそうにも見えたし、いきなり笑い出しそうにも見えた
彼女が嫌いだという意思表示のためだけに同級生に伝わりやすい形で意地悪をした
たまに帰り道で二人きりになると距離を置いたまま会話をした…照れながら会話をした
他の同級生とはできない内容の会話に心が躍った
いつもの距離を埋めて、さらには近づこうとしていたのかもしれない
「意地悪をするのはその人のことが好きだからです」と女の担任に言われ、ドギマギしながらそれを否定したけどどこかホッとした思いもあった
中学校までいっしょで、その後は同窓会で会うこともなくそれっきりだ
元気でいてほしい、幸せであってほしいと彼女を思い出すたびにそう思う
たぶん転校してきた初日の服だったと思うのだけど、クリーム色のハイネック、あとグリーンが混ざったウールぽい生地のノースリーブのワンピース、どうしてだか今でもはっきり覚えている
この作品のあるエピソードで彼女にまつわるいろいろを思い出した
持って行き場のない中学生たちの精神の発露を台風にからめながら描いた作品
思春期の不安定さが制約なしにむき出しで、暴力的なまでに荒々しくそして繊細に定着されている
独特の間、演劇的でオフビートなアフレコもあってダメな人はまったく受けつけないと思うけれど、鳥肌が立つほどの映画
日本人が誇るべき邦画といってよいと思う
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