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桜の森の満開の下のHKのレビュー・感想・評価

桜の森の満開の下(1975年製作の映画)
4.0
坂口安吾原作の小説を「心中天網島」「沈黙-SILENCE-」などの篠田正治監督が映画化した日本映画。キャストは岩下志麻、若山富三郎などなど

満開の桜の下を通ると気が狂うという言い伝えがまかり通っていた平安時代に、山に迷い込んできた旅人を山賊が襲った。旦那は山賊に殺されたが、女房の顔を見て山賊は一目ぼれして妻にしようと山に帰る。すると…

篠田正浩監督と言えば、結婚した岩下志麻さんを主演女優として頻繁にキャスティングしたために後年なぜか知らないけどいろいろと批判の槍玉にされてしまった可哀想な経歴がありますね。そんな篠田監督ですが松竹ヌーヴェルヴァーグを支えた一人としてとても沢山の傑作を残しています。

この映画はそのような作品とはちょっとは違うのかもしれませんが、個人的には岩下志麻さんの狂気じみた演技を見てみたくて鑑賞してみました。

やはりヒステリックでサイコパスな女性をやらせれば岩下志麻さんの右に出る人はいませんね。凛々しくてハスキーな声から出される強気ながらもどこかしとやかさも感じるあの声が大好き。

そんな岩下さんが映画の中盤以降に首を使っておままごとするシーンはある種のフェティシズムを感じさせる。見事なまでの演技であった。

前半では山賊のほうが蛮族で正気とは程遠い存在のように感じたが、そんな状態はすぐに終わり岩下さんのほうが正気じゃなくなっているというのは恐ろしいことである。やはり女は怖い。

篠田さんはよくよく外の世界と内の世界の乖離というものを映画内において必ずメタファーとして入れているのだが、この映画では山賊が都会に出た後の描写がそれを体現しているのだと思う。

山賊として山にいる間は威張れる存在なのだが、いざ町に降りてみるとみんなから忌み嫌われて孤独に陥ってしまう。都会の世界と山の世界の環境の違いによってここまで人が変わってしまうということを見事に描いていた内容であった。

桜の花びらが舞うシーンなどはスローモーションを用いているがそこがある種の恐怖を呼び込む。終盤の岩下志麻さんの豹変っぷりにはびびる。

いずれにしても見れて良かったと思います。もうちょっと篠田正浩の映画を見てみたいですね。岩下志麻さんの名演技っぷりもとても見ていて良かったです。
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