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クレイマー、クレイマーのろのレビュー・感想・評価

クレイマー、クレイマー(1979年製作の映画)
5.0

寒くなると観たくなる「クレイマークレイマー」。
6連勤がようやく終わり、休日の朝TSUTAYAに借りに走りました。
食パンを卵と牛乳に浸して、ベーコンと一緒にバターでこんがり。
ほかほかのフレンチトーストにかぶりつきながら観る「クレイマークレイマー」、2年ぶりの鑑賞でした。もう最高によかった。

この映画を観るのももう5回目。それなのにいつ観ても新しい発見があるんですよね。
例えばジョアンナとテッドが再会する場面。
レストランの一番奥のテーブルで待つジョアンナ。そして遅れてやってくるテッド。
ウェイターに尋ね、こちらに向かってくるテッドがジョアンナの後ろの大きな鏡に写り、座っているジョアンナとともにフレームインする。そしてカメラがゆっくりと左に移動し、向かい合わせに座る二人にクローズアップする・・・
こういう切り取り方されてたなんて全く記憶になくて、なんだか新鮮だった。

ちょっと家出しただけだろ。またすぐ戻ってくるさ。妻さえ戻れば家事も育児も元通り、自分はまた仕事に専念できる。
そんな考えは甘っちょろくて、当然テッドの思い通りにはならなくて、結局出世のチャンスはダメになるし、妻も戻って来なかった。
いて当たり前だった人がいなくなって初めて、自分の至らなさに気付いたテッド。そんな自分を受け入れるまでの過程を描いた映画だったんだなと今回初めて思った。

フレンチトーストを作ろうにもフライパンがどこにあるのか分からない。
スーパーに行っても妻がどの洗剤を使っているのか分からない。
今まで知ろうともしてこなかったことは自分より息子の方がよく知っていて、はじめは意地になった。
息子宛に届いた妻からの手紙でようやく、テッドは事の重大さに気付く。
自分が仕事で成功したら、同じように妻も幸せなんだと勘違いしていたこと。
家事・育児は女の仕事と決めつけ、家族をないがしろにしてきたこと。
妻を追い詰めたのも、彼女が出て行ってしまったのも全部自分のせいなんだ。
チョコアイス騒動の夜、今までみたいに強がったりカラ元気を出したりせずに、テッドは自分の至らなさを息子に話す。一緒に食事をしても絵本を読み聞かせても埋まらなかった心の溝に、さらさらと水が流れ始めた。

ビリーが初めて自転車に乗れた日、公園の並木は赤く色付いていた。
毎朝学校に送り届けるまでの間、ビリーは友だちの話を聞かせてくれるようになった。
クリスマスソングを口ずさみながらツリーを飾り付けた夜、テッドは失業真っ只中だったけれど隣にはビリーがいた。
「ママの出身地はボストンだから僕もボストンを応援するんだ」と言い、「これパパがこどもの頃に好きだったの?マズすぎるよ」とステーキを吐き出していたビリー。しかしお父さんと過ごす時間が増えるほど、「あの橋を越えるとブルックリンだね。パパが生まれたところだ」「パパはこどもの頃、何して遊んでたの?」と目を輝かせるようになる。

息子を巡り裁判をすることになったテッドとジョアンナ。
けれど裁判を通して知ったのは、お互いの本音と自分の至らなさだった。
結婚が失敗したのは夫のせいだと決めつけていたけれど、離婚届に判を押した自分にだって責任があるということ。
あんなに仕事一筋だった夫が息子のために大事な仕事を放り出したこと。
いくら言っても変わらない変われないと諦めていたけれど、それは彼のほんの一面に過ぎなかった。

自分にとって都合の悪い事実が次々さらけ出される。
かっこ悪い自分、見たくない現実に向き合うって覚悟がいるし厳しいし、突き刺さって痛い。でもその痛みのおかげで確実に前に進んでいける。
お互いのいいところも未熟さも含めて、また家族になれる。
自分にとって大切なもの、大切にしていきたいものはなんだろうと考えるラストだった。


( 2016年6月12日 鑑賞時レビュー ↓ )


「僕が悪い子だから、ママは出て行ったの?」

毎年1回は必ず観ている大好きな映画。そして私がダスティンホフマンのファンになったきっかけの作品でもあります。彼の演技はいつ見ても色褪せませんね。

広告会社で働くテッド。彼の頭の中は仕事のことばかり。家庭を顧みず、家のことは妻のジョアンナに任せきりだった。その生活に終止符を打ちたいジョアンナは家を出て行く。残されたテッドと息子のビリーは...

ジョアンナが出て行って、むしゃくしゃするテッドと悲しむビリー。2人はなかなか打ち解けることが出来ません。
ジョアンナからの手紙をテッドが読む場面。
「ママは自分のやりたいことを見つけるために家を出て行きました...」
自分を置いていったことが悲しくて寂しくて。それ以上手紙を読んでほしくないビリーはテレビの音量を上げる。その姿が何ともいじらしくて切ない。

1番好きなのはテッドとビリーが仲直りする場面。
「パパもどこかへ行っちゃうの?僕が悪い子だからママは出て行ったの?」
パパはママを理想の奥さんにしたかったんだ。それでママを型にはめてしまった。ママは努力したんだけど疲れちゃったんだ。だから、ママが出て行ったのはビリーのせいじゃないよ。パパのせいなんだ。
これをきっかけに2人の心の距離がグッと近くなります。

初めての自転車、絵本の読み聞かせ。
ビリーの発表会。セリフを忘れたビリーに テッドが口パクで教えてあげる。あったかいパパだなぁと思わず微笑んじゃう場面。

後半はガラッと変わってビリーの養育権争いに。

ビリーを愛する気持ちは同じなのに、裁判を起こして争うというのは何とも悲しいですね。
「子どもにとって良い親とは何でしょう?」
「男は親としての能力が劣るなんて、一体どこに書かれているんだ」
テッドの言葉が胸に突き刺さります。

そして、最後のジョアンナの決断。
子ども部屋の壁紙は私とビリーで決めたの。あの子の居場所はここだから、私は連れていけない...
悩んで悩んで出した結論なのだろうな、苦しかっただろうな。ジョアンナの気持ちを想うと涙が出ます。3人の幸せを願わずにはいられないラストです。
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