あなぐらむ

マイ・ボディガードのあなぐらむのレビュー・感想・評価

マイ・ボディガード(2004年製作の映画)
3.7
何人か、この人が出てる映画はハズレなし、という役者さんがいる。
おトム?あれば別格だが、この頃は今ほどの安定感を持っていなかったのも事実。
例えばモーガン・フリーマン、ジーン・ハックマン、そしてデンゼル・ワシントンもその一人。
確かな脚本、役セレクトと演技力で、どの作品も安心して観られる。一定以上のクオリティを、役者一人の力で弾き出す才能。

本作は「クリムゾン・タイド」以来の監督トニー・スコットとデンゼルの仕事、しかも天才子役、ダコタ・ファニング(当時)と共演とあっては楽しみにしない方がおかしい。勇んでクリスマスシーズンの劇場に出撃した。

原作はAJ・クィネルの「燃える男」。以前からミステリ・冒険小説ファンの間ではラドラムの「暗殺者」と並んで評価の高かった作品で、映像化の話も多くあった。「暗殺者」はマット・ディモン主演で「ボーン・アイデンティティー」として映画化され、以降シリーズとなった。
(ラドラムは亡くなってしまって、俺の好きなジェレミー・レナーのアーロン・クロスもの「ボーン・レガシー」は別の作者による継続作品)。

お話は、16年間も軍のテロ対策特殊部隊で活動し続け、殺す事に疲れ、酒に溺れた男が、友人の薦めで誘拐が続発するメキシコシティで会社社長の娘のボディガードの職につき彼女と交流していくうちに生きる希望を見出していくのだが、そこにも誘拐犯の手が伸びて…という展開。

後半いくつかドンデン返しがあるので詳しい事は書かないが、観終わった時、もっと感動できてもよかったんじゃないか? と思うんだが、あまりジーンと来なかった。なんというか、物語とカメラワーク、編集が合ってないというか、どうにもバランスが悪く感じられたのだ。正直、もっとどっしりとした演出で見せてくれ!という感じ。
せっかくのブライアン・ヘルゲランドの脚本も、デンゼルやダコタちゃん、友人役のクリストファー・ウォーケン(!)の名芝居も、MTV風の不安定なアングルと安っぽい素早すぎる編集、何度も繰り返されるフラッシュイメージの洪水で台無しになってる印象。

トニスコは「クリムゾン・タイド」の時はもっと骨太な、どっしりした演出で見事なドラマを描き出していたのに、今回は彼のCM的な感性が勝ってしまったのかプロダクション的な要請なのか、材料と料理法が全然合ってない気がした。激しく勿体無い。今でこそ評価されてるけど、トニスコってこの頃はガチャガチャした画面ばっかり(「ドミノ」とか)で、どうしたお前、と思ったもん。

それとこの話、原作からそうなんだろうけど考えてみると非常にヤバい話で、「やられたらやり返す」というある意味凄くタカ派というか、そういう印象を持たれかねない話なんだな。当時のイケイケのアメリカのテロとの戦いをまんま地で行くような感じなんで、どうよ、とか思って、それも感動を阻害したのかな、とは思う。
この発展系というかやり直しを、デンゼルは「イコライザー」シリーズはアントワン・フークアという才能でもって成功させてフランチャイズとなったので、これはそのパイロット版という気がしないでもない。役者のキャリアって面白いね。

銃器監修にマイケル・パパック(ダイ・ハード、リーサル・ウェポン等)が参加しており、ガン・アクションは非常に見応えがある。
おっとそれから、ミッキー・ロークが出てる。ダコタちゃんはほんと見事な演技で感心しきりですわ。大きくなられてね。
当時の彼女、普段一番ケアしてる事が、「子供らしくする事」だったというのがね。凄い。

木戸銭分の価値はある映画だと思うが、あとは感性の問題かな。俺歳とったんだなぁと思いながら(当時)、若者で賑わう歌舞伎町を後にしたのだった。