品川巻

他人の顔の品川巻のレビュー・感想・評価

他人の顔(1966年製作の映画)
4.7
【2人の三角関係】

2回目の鑑賞。
高校時代に一番好きだった邦画。
(↓大好きな作品なのでやたら長いです、駄文でお目汚しすみません)

失った顔を取り戻すのではなく作り替えた時、人の核はどこまで変わるのか。

顔を火傷で失った男が新たな顔(仮面)を購入し、かつて自分を拒絶した妻を、別人として誘惑することで、2人の間で奇妙な三角関係が生まれる。

妻は顔を無くした夫に対して、愛ではなく情が生まれる。でも夫は妻からの愛が情に変わることが許せない。
だからこそ妻に求められて嬉しい反面、「自分の顔ではない男と不倫している」事実に激しく嫉妬する。

他人の顔を借りて自分の行動が全て"一人称"から"三人称"の視点へと変わることで、「この顔の男に見合った行い」として、顔に即した大胆な行動が目立つようになる。(不道徳なことも)
それと同時に、主人公は顔の"借り手"から"支配者"へ変わる訳で、次第に心が顔に順応していき、内面まで荒々しく変貌していく。

どこにも帰属しないというのは責任がないことで、自由というのは逆を返せば孤独ということ。
自由=孤独は悲観すべき事象だと結論づけられそうなところを、安部公房は「孤独というやつは、逃れようとするから地獄なのであり、進んで求める者にはむしろ隠者の幸せであるらしい」と説く。

本作では、人間は他人の目を借りて評価を受けることでしか自分を確認できない生き物とされている。
それを考えるとラストのあの行為は、「群衆の中にいながらもその一員ではない」という自己の匿名化に成功した証明として必要だったのかもしれない。

ちなみに今作では、うんざりするほど文学チックな(臭い)セリフが多用されている。

・(体のレプリカを触りながら)「指の形をした劣等感だ」
・「女はなぜ化粧をするか。男を騙す為じゃない。へりくだっているのよ。女は女である以上に、見せびらかす顔なんて持っていない」

一歩間違えれば、「何言ってんだこいつ」となり得るウザいセリフも、勅使河原監督の超現実的な映像、武満徹のザワザワする音響と合わさることで、なんだかセッションっぽくなるw
臭いセリフが浮かないような土台作りがされることで、むしろ臭いセリフがないと浮いてしまうという不思議。平坦なシーンなんて、バンドにギターがいないような違和感を感じる。

ただ、私が記憶していたよりも主人公が卑屈でイライライライラしたのも事実。
自虐を言う割に「そんなことないよ」を言われ待ち、という最も嫌いなタイプ。
ウザすぎて辟易したので、そこは我慢の必要あり。

高校生の時より多くの映画に触れて、『他人の顔』と同じくらい好きな邦画は増えたけど、
一番好きな映像であることはこの先も変わらないと思う。
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