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病院坂の首縊りの家のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

病院坂の首縊りの家(1979年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

不気味な新郎新婦が、廃屋となった法眼病院で結婚写真を撮影した翌日、新郎の生首が廃墟の天井から風鈴のように吊り下がっていた。写真館主人の依頼で調査を開始した金田一耕助は、法眼一族の秘密を巡る連続殺人に巻き込まれる。果たして、一族が抱える秘密とは何か…? 金田一耕助最大にして最後の事件の真相とは!?

本作は市川昆監督と石坂浩二の金田一シリーズ最終作であると同時に、一番難解であり、しかも異色作。

オープニングからして異色。
あの印象的な明朝体のクレジットが無い。
キャスト・スタッフの字幕は進駐軍向けのジャズ・バンドの演奏シーンに被せて出て来る。
これまでは、閉鎖的な土地で、日本人の因習を浮き彫りにするような物語ばかりだったが、本作ではジャズ・バンドが登場し、舞台も東京のモダンな住宅街。
そして何より金田一耕助が渡米する前という設定も相まって、これから日本が欧米化し、消えゆく古き文化に別れを告げるかのような寂しさが漂う。

物語は「最後の事件」に相応しく、とてもスケールが大きく、まさに難事件。
足掛け20年以上に渡る物語で、人間関係の複雑さはこれまでにも増して群を抜いている。
人物の相関図を追うだけで一苦労。
一人二役のヒロイン桜田淳子が、さらに謎をややこしくする。

そこで珍しく金田一耕助を手伝ってくれるパートナーの存在が登場するのも異色。
若かりし頃の草刈正雄が名前とは正反対の良く喋る黙太郎を演じ、軽快なバディ・ムービーの趣きも出てくる。

しかし、当の金田一は後半、法眼一族の過去を探るため、東北に出向く。
ここまで推理に確信を持てぬまま金田一が現場を長く離れるのも異色ならば、シリーズで初めて自らの出生を明かす金田一の独白も異色。
これまでプライベートなど一切語らなかった金田一に彼もまた人間であったかと親近感が湧く。

異色作ではあるものの、事件の根底にあったのは、シリーズに共通する複雑な人間模様と愛と悲しみのドラマ。
そして悲しい運命に翻弄され、殺人を犯してしまう美しい女性、法眼弥生(佐久間良子)の一代記。

難点は彼女だけでなく、4世代にも渡る悲しい女の人生と犯行経緯をあまりにも駆け足で振り返る謎解きの速さなのだが、それでもその重みと悲壮感は充分に伝わってくる。

自身の運命を狂わせた病院坂で、長きに渡る苦悩と殺人の罪から、弥生が服毒自殺でようやく解放されるラストシーンは涙無しには見られない。
それを坂の上から金田一が見届けて去っていく。
これまでの作品の犯人のように単なる犯行からの逃げや罪滅ぼしではなく、「苦しい人生から、ようやく解放されて良かったですね…」とすら思えるのだ。
その美しさと悲しさはシリーズ随一である。

文庫本で上下巻という大作のボリュームを、ここまでコンパクトにまとめた市川昆監督の手腕の凄さ、そして時代が変わるとともに消えていった金田一耕助に名残惜しい想いを抱かせる、シリーズ最終作に相応しい重厚な一作だ。
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