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病院坂の首縊りの家のこたつむりのレビュー・感想・評価

病院坂の首縊りの家(1979年製作の映画)
3.3
「よし、わかった!市川崑監督版《金田一耕助》シリーズ最終章だ!」

《金田一耕助》最後の事件として。
それまでに映画化された作品と執筆時期が違う本作は、やはり毛色が違う物語でありました。

だから、単純に比較してはいけないのでしょう。
これまでの作品で描いてきた“お化け屋敷のような怖さ”は、やはり終戦直後に執筆したからこそ(『犬神家の一族』『獄門島』『女王蜂』は1947~1952年の脂が乗っている時期の作品。本作は1975年の作品)。当時は“因習が支配する農村”に猟奇的な雰囲気を感じることが出来る年代だったのです。

そして、本作が執筆された昭和40年代は。
目まぐるしく発展する世の中に取り残された“ぼんやりとした闇”が怖い時代。それを“病院坂の首縊りの家”として表現されたのは慧眼の極みでした。ただ、全盛期を過ぎていたことは否めず、物語の方向性の違いも含めて原作は微妙だった…のが正直なところです。

そして、映画化された本作は。
横溝正史先生の真骨頂である“カストリ雑誌のように猟奇的で俗悪な雰囲気”を再現しよう…とした痕跡を見受けることは出来ました。特に舞台である“病院坂の首縊りの家”の雰囲気は絶妙です。湿気を吸い込んだ木材の臭いに満ちた空間は…魂が震えるほどにドキドキします。廃屋マニアは必見ですよ。

また、クライマックスを彩る“病院坂”も。
物語と相俟って最高のロケーションでした。
しかし、それらに感じるのは猟奇的な恐怖よりも、夕闇に消えていく昭和の香り。ドロドロの情念よりも、枯葉が積みあがった哀愁。やはり、前四作の根底に流れていた“お化け屋敷のような怖さ”ではないのです。

だからなのか、軽妙な演出も目立ちました。
例えば、横溝正史先生ご本人が出演されているのですが、棒読みの台詞がコミカルに映って、微笑ましい限りなのです。その他にもセルフパロディのような台詞が散見されますからね。あえて“明るい雰囲気”を狙ったのかもしれません。

まあ、そんなわけで。
役者名を明朝体で表現した恒例のオープニングも今回は無し。やはり、最初から最後まで前四作とは違う雰囲気なのでした。それでも、原作自体が微妙な割には頑張っていたと思いますので、期待し過ぎなければ楽しめるんじゃないでしょうか。

それにしても、なんで本作には坂口良子さんが出演していないのだろう…。残念。
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