takanoひねもすのたり

イン・ザ・カットのtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

イン・ザ・カット(2003年製作の映画)
3.5
ケ・セラ・セラの曲に乗ってセピア色の映像。
スケートを華麗に滑る美男の男性と、美しく回転する女性の姿、表面に残される赤い軌跡。
冒頭のシーンから引き込まれた。

近隣で起きた猟奇殺人事件の犯人と思われる人物(顔ではなく手首のtattoo)を目撃していたフラニー(メグ・ライアン)しかし聞き込みにきた刑事マロニー(マーク・ラファロ)にそれを打ち明けることはしなかった。
彼の手首に目撃したtattooと同じ柄が見えたため。でも何故か惹かれるフラニーはマロニーと関係を持つようになるが、殺人は止まらず遂に彼女の腹違いの妹が犠牲になり、彼女はマロニーが犯人では?の疑惑を抑えきれなくなってゆく……という官能サスペンス。

映像がとても好み。
(監督作で映像が好みでなかったことは無いけれども)
少し粗めのザラつきを感じるフィルム、色温度をややオレンジ強め、コントラストは暖色強め、寒色は黒、白、青で強くしている気が。
トイカメラっぽく、被写界深度が浅めで背景がもやがかかったよう。
赤が全編のイメージカラーなのかな。
犯人を称して「血が好きな奴だ」という台詞があったので、血の赤か。
シンボリックな使い方。
凄惨な殺害現場のシーンは血まみれ、そして、何でもないようなシーンにも細かく赤を挿し色に使い『赤』を刷り込ませる、そしてその使い方が多様でそれを観ているだけでも映像に引き込まれた。
フラニーが地下鉄の車内ポスターの文字に惹かれるように。

日本の短歌が一瞬出る。
今ここにかへりみすればわがなさけ闇をおそれぬめしひに似たり
与謝野晶子のみだれ髪の一句。

後半の展開を思えば言い得て妙。
めしひ(盲)ですもんね、フラニー。
マロニーに惹かれたことで。

官能物としてのエロさは言葉のストレートな物言い(フラニーが学生から聞き取りしたスラングの意味もエロ用語)なんじゃないでしょうか。テレフォンセックスのシーンなんかは(マロニー!お前!これは寸止めだ!!)
とか思ったり。
スパニッシュ系+刑事という職業+男性性の強調(ヒゲや胸毛とか……)部分が多くて、欲望の色合いは感じるけれど五感にくるエロさではなかったというか(個人の感覚)
ラストの赤い灯台もソレの隠喩といるかも知れませんが。

そして猟奇殺人事件のミステリーとして観るとこれは完全に物足りない。
ミスリードさせるだけさせての放置が……苦笑 

殺害現場になったコインランドリーやフラニーの妹の浴室のシーンはグロ血まみれで絵的に大変良かったですが。
犯人の犯行の動機が読み取れないため宙ぶらりんな感は否めない……んですが、監督のミステリードラマ作品(シリーズで2S手掛けてる)の方も微妙にもやもやっとして終るので(解決はするけれど)そういう終わり方を好んでいるのかも。

振り返れば官能にもサスペンスにも振り切れておらずバランスが悪いっちゃー悪いのですが、NYの猥雑さが溢れ活気ある映像が心地よいし、セクシャルな際どい会話のやり取りも(ほほぅ……)とか思っちゃうし、個人的には好き。
でも他人におすすめはしない。