Qちゃん

イン・ザ・カットのQちゃんのレビュー・感想・評価

イン・ザ・カット(2003年製作の映画)
3.6
20年近く前にアメリカのTV放送で観たっきりだったが、アマプラで出てくれたので再見。

昔観た時以上に、暗く危うい雰囲気や、夢うつつの雨でぼやけたようなカメラワーク、ファンタジーを血で汚すような見せ方がクセになりそうで、作風は意外と好きだった。

オープニングからして、どことなく居心地悪く、薄気味悪い。
街の片隅にさりげなく存在する、よく見ると禍々しく不気味な光景。
その映像と共に流れるのは、不穏なピアノ伴奏と共に、頭のおかしい女が虚無の多幸感の中で歌っているような、暗く調子外れな「ケ・セラ・セラ」。
メルヘンのようなアイススケートの白黒映像に不似合いな、スケート靴が滑る鋭いエッジ音と、その跡に滲む血。
そして古くなった血のような色と字のタイトル。

この、のちに主人公の父と母のイメージと判明する、一連のアイススケートのレトロな白黒映像がまた、可愛いのに不穏で、ファンタジックでありつつ悪夢のようで、女たちが身勝手な男に振り回されて心身ともに傷つく現実も象徴している。あのノスタルジックさの漂う気持ちの悪い映像は、かなり印象に残る。

映画の空気と雰囲気が凄く濃厚で親密。エロいシーンだけじゃなくて、とにかく全編。

猟奇殺人を扱った映画は多いが、本作の空気感の中で、特にバラバラ死体の入ったコイン・ランドリーを警察が開けた時、血がダーッって出るシーンなんか、血の匂いが伝わってくるかと思ったくらいナマナマしくてエグイ。そして本作の3人目の犠牲者発見シーンの痛ましさが半端ない。

でも、これまでラブ・コメの女王で来てたメグ・ライアンの大胆な方向転換の挑戦は、全然彼女の魅力を生かしきらずに終わってる。自分に合わない役どころに対して無理してる感が否めない。刑事の男も、全然魅力を感じられない人だった。主人公が、この犯人かどうか分からない刑事と深みに嵌っていく様は展開としてはいいが、同じ流れでずっと面白い作品がたくさんあるし、こんなあからさまに女を性対象と見下してるっぽい男に溺れる要素が見出せず、全く共感はできない。

フィルマークスコアのここまでの低さは不憫な気もするが、なにぶんイメージ先行型で、ストーリーはずいぶん無理矢理な進行だし、ぶっちゃけ雑。意味深にいろんなシーンを挟んでみるものの、結局無意味なものが多いし、同じようなシーンの繰り返しも多くて飽きてくる。怪しい人たちを散りばめときつつ、あんまり事件主体でもなく、犯罪の動機やら標的選びやらは曖昧なままなところでも、スリラーとしてはかなり物足りない。

脚本、女性が書いたと思えないほど、男たちが男性本位で、女たちは真の愛を渇望し、性に慰めを求めている。男たちはみんな脅威だし、女たちはみんな精神的弱者。なんだこれ。

よく見たら監督と脚本が「ピアノ・レッスン」のジェーンカンピオン!イメージが綺麗なのは相変わらずだし、性に動かされる女性を書いてるのもそうだが、相変わらず共感できない人たちばかり描くなぁ。。
Qちゃん

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