とし

オアシスのとしのレビュー・感想・評価

オアシス(2002年製作の映画)
4.6
イ・チャンドン監督に「絶対手離さないから安心して渡ってみ」って言われ、ジリジリと今にもロープが切れそうな綱渡りをしている気分。ずっと少年のような心でいたい。なんて、この映画を観ても言えるだろうか。やってることは厨二病以下。むしろ小学校ん時一緒に遊んでいたかもしれない。デフォルトの鼻すすりや、じっとしてらんないのか、いつも小便ガマンしてんの?てゆう不思議なステップ踏んでるやつ。そんな心と体が同時に動いてしまう彼の、心許ない一挙手一投足から目を離せられないでいるうちに、気づけば人間の一番深い根っこを見ることになる。まるで顔を洗うように両手で大きな豆腐を掬って貪るアウトサイダーは、まだ見ぬ世界にぼくらを連れ出してくれる、坊主頭のヒーローだった。

姫様は思う。目の前にいるあなたが、わたしが愛する人。そんな気持ちが、スクリーン越しに伝播する。"ウキウキ"やら"ドキドキ"なんかでは伝わらない愛しさの衝動こそが、まさに世界の中心。デートの盛り上がりには必須要件の妄想。あまりにも「え?」てゆう真っ直ぐな妄想シーンに、思わずこっちの胸も目頭も熱くなり、ホッとしてしまった自分がいた。それは、映画が始まってからずっと無意識に渇望していた、私にとってのオアシスだった。と同時に、その潤いで生き長らえた自分を、監督が容赦なく鋭い視線で刺してくるような居心地の悪さが待っていた。

手を伸ばす邪悪な影が、ゆっくり、ゆっくりと消えていく。たとえ障壁が大きくとも、育まれる愛も大きいと信じたい。そして兄嫁に優しく介抱されながら、あんたは邪魔よとハッキリ言われてみたい。
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