岡田拓朗

百万円と苦虫女の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

百万円と苦虫女(2008年製作の映画)
3.8
ストーリーは淡々としているが、展開や対比から様々なメッセージ性を感じる。
前科から実家に居づらくなり、あらゆる場所で100万円を貯めながら転々と生活していく主人公佐藤鈴子(蒼井優)を軸にストーリーが展開されていく。

その人の過去の事象のみにしか目を向けずに(本質を見ないまま)その人の今までもを否定する人、その人の今をしっかりと見てその人を受け入れる人が対比で描かれており、その対比から前者を皮肉っているようにストーリーを展開させていっているのは見事。

さらに、そこだけではなく、主人公のある意味自由で、やろうと思えばできる生活ではあるがなかなかできない生活と、弟の狭い組織(学校)の中で、我慢しながら生きていく生活を対比することで、我慢することだけが正解じゃなく、自分の気持ちに正直に生きていくことの大切さをも訴えているような作品であった。

人間の残酷な部分を見せながらではあるが、全体的に重い作品にならずに、微笑ましく話が進んでいくのは、鈴子が周りからの目を気にするような性格ではなく、我慢を選ばずにしたい生活をすることに特化していたからに他ならない。

鈴子がもし多くの日本人のようなタイプの人として描かれていれば、おそらく今作はなかなかの鬱映画になったのではないか、と思う。

人間とは過去の出来事などで、すぐにレッテルを貼りたがる生き物であるし、そのレッテルを過剰に受けざるを得なくなることが多いから生きづらくなっていることは明らかである。

だから鈴子は自分の過去や自分のことを知らない場所に居場所を見つけようと転々としていたが、むしろ居場所なんてものは無理して作る必要がないということが、今作を見てわかったし、今居場所がないと感じている人はぜひ今作を観て欲しい。
少しだけでも希望が見えてくると思います。

過去のことを知らないままに、様々な人と出会っていく鈴子が、その転々としていた場所とそこで出会った人に自然と受け入れられている。
今(と中身、本質)を見た人がその人の過去を見たときにとる行動と今(と中身、本質)を知らずに過去を知った人がとる行動の違いは歴然としていて、そこに人間らしさが詰まっている。

誰もをいきなり完全に受け入れようとすることは難しいことかもしれないが、その人のことを全く知らずに過去の事象だけを見て、その人を判断することはよくないなと改めて実感。
できる限り知ろうとするその行為そのものが大切。

だからこそ逆も然りで、頑なに自分を見てくれようとしない人や反することをしていないのに自分を攻撃してくる人、まず受け入れようとしない人には、割く時間そのものがもったいないので、できるだけ関わらない方が自分の人生を豊かにすると思います。

今作でいうと、桃農家の男(ピエール瀧)と地方都市での同期(森山未來)がしっかりと受け入れる役柄の人としてとてもよかった。
普段は怖い系やクズ系な役が多い二人なので流れ的に、特に森山未來は今回も途中までは「その路線かー!?」と思ったけど、見事に裏切られました。笑
見直したぞ森山未來!

主演の蒼井優は、相変わらず不器用で素朴な女性の役柄が合うのと細かい部分の演技がとてもよかったです。

ラストの切なさと蒼井優のかわいらしさが本当に素敵。
岡田拓朗

岡田拓朗