Habby中野

8人の女たちのHabby中野のネタバレレビュー・内容・結末

8人の女たち(2002年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます


証言は瞬く間に上塗り消去され、人の情は(驚くほど)すぐさま「憎」に変わる。被害者の不在、探偵の不在、事実は真っ白な雪とスクリーンに埋もれて溶けて、掬い見ることはできない。信頼できない語り手、存在しない物語の気の狂いそうになる魅力は夢野久作の小説か、はたまた未来の実験小説かと紛うほど。虚ろな歌と同じく土台の無い空虚な物語が、8人の女たちの女ゆえの問題を抱え、時代錯誤的な設定さえも飲み込みすべてでミステリという体裁を繕っている。吹けば飛ぶような軽さを持つ重層的な構図、込められた多すぎる人間の孕む問題。不在となりながらもそうは言い切れない被害者はまた家族の「父親」であり、或いは女たちにとっての(あらゆる意味での)「男」でもある。女の持つエロス、それは感じる男がいるからこそ生じ、しかしそれが不在のため強調される。存在のための不存在、不存在のための……。おそらく物語というものも同じなのだろう。
中身は違うけど明らかに通じている「黒い十人の女」をオゾンは観たんだろうな。ああ誰か頼むから搾れば搾るほど溢れ出てくるこの空の実を、物語を「図解」して再び悦ばせてくれ……。
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