ALABAMA

大日本帝国のALABAMAのネタバレレビュー・内容・結末

大日本帝国(1982年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

久しぶりに感想。
東映映画。ヒットした『二百三高地』に続き、製作された桝田利夫監督、笠原和夫脚本作。尺3時間(途中休憩あり)にも及ぶ超大作戦争映画である。
第二次世界大戦中、日本はABCD包囲網による資源の補給ルートの断絶と、アメリカからの経済制裁から国家の危機に直面していた。アメリカの要求は、中国からの日本軍撤退。明治以来築いてきた大日本帝国の領土を守る為、新たに発足した東条内閣は、昂ぶる軍の勢いに圧され、アメリカとの戦争を決意する。1941年12月8日、帝国海軍はハワイ真珠湾を攻撃。米国艦隊に多大なる損害を与えるとともに、戦闘状態に突入する。太平洋戦争史を元に、大東亜共栄圏を保持せんとする帝国政府の政治的なドラマと、その戦禍に飛び込む二人の一般青年の人間的なドラマという、あらゆる視点と独自の解釈を持った映画に仕上がっている。本編は二部構成で、第一部「シンガポールへの道」、第二部「愛は波涛をこえて」。
1982年に製作された作品で、戦争責任を問う内容であった。しかし、観た印象としては、この作品には製作者、もっと言えば脚本の笠原和夫氏の私見的な側面が強いと感じた。日本の非を認めつつも、米国を悪として描いており、この作中では日本の被害者的な部分が際立ってみえる。当時の日本人のイデオロギー映画としておそらくは理解されているだろう。日本人は人道的、アメリカ人は非人道的存在として登場している。日本軍に対し同情的で、アメリカ軍に対し批判的な映画である。公開当時から、右翼映画か左翼映画かという論争が巻き起こり、様々な評論家や製作者が意見してきたようだが、あえて言うなら戦争賛美でも反戦映画でもない、戦争世代の自己肯定映画ではないだろうか。ちなみに評論家の四方田犬彦氏は、これを戦争ノスタルジー映画だと評価している。2012年の終戦記念日にテレビ東京が、この作品を地上波で放送しているが、そこにどういう意図があったのかが知りたい。批判的な意味ではなく、なぜ放送に踏み切ったのかという単純な興味で。
演出面では、迫力ある映像と高度な特撮技術を用いて戦場を再現している(使い回しもあるけれど)が、肝心の人物たちの演技がなんともお粗末である。生死をわける戦場の緊迫感がまるで無い。日本映画の現場では、役者の演技を監督が指示し、大衆などのエキストラの演技を助監督が指示するが、監督がエキストラの動きを助監督に丸投げしていると、俳優たちが鬼気迫る演技をしているのに、その背後の人間が大根芝居をしているという状況が起こって、油と水の如く浮いて見える。特にスケジュールがタイトな作品によく起こる現象である。『大日本帝国』が、このケースに当てはまるとは、断言できないが、少なくともそこに多くの妥協があっただろうと推察する。
戦後72年を迎えた今年2017年、今一度この映画を観てみることで、何かを感じられることがあると思う。感情ではなく、客観的な視点で鑑賞した方が良い。
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