おなべ

哀しき獣のおなべのレビュー・感想・評価

哀しき獣(2010年製作の映画)
3.7
何度も見返して理解を深めても尚混乱してしまう程、人間関係の相関や行動の意図・目的がかなり複雑に絡み合っている為、集中力を最大限に高めて鑑賞する事をお勧めする。

『チェイサー』でW主演を果たした《ハ・ジョンウ》《キム・ユンソク》が再タッグを組み、上作同様監督は《ナ・ホンジン》監督が務める。複雑な運命に翻弄される“男達”を病気的に描いた韓国ノワール映画。

4章構成・「狂犬」がキーワード

violenceに関しては安定感抜群で安心して血塗られた泥臭い好戦を楽しめる。加えて監督の凄い所はviolenceやactionだけでなく、肺腑を抉るような微妙な人間関係を描くのがとにかく巧い。しかも、出てくる人の殆どが悪人であるにも拘わらず感情移入してしまうという謎の現象を誘引する業を持っている。一つ一つの細かい演出であったりテンポの良さであったり、流石その道のプロである。

牛骨で敵をなぎ倒す《キム・ユンソク》のワイルドさ、アコギな演技もサマになっており、敵を悉く血祭りに上げようとする溢れんばかりの心意気も十二分に伝わってきた。走り方は相変わらず一貫して無表情。執念深く冷酷非道なキャラクターとしては花丸の好演だった。

《ハ・ジョンウ》は思わずアテレコしたくなる様な表情豊かな演技がとても好印象だった。序盤から終盤にかけて徐々に顔付きが鋭くなっていく変容も良かったし、体当たり演技も相当good job。特に、銀行で見せた意味深な表情がかなり良かった。


【以下ネタバレ含む】


●終盤、2人の「妻」に関するまさかの衝撃展開はhappy endにもbad endにも捉えられ賛否両論別れるが、個人的には哀しさを助長する為の良い味付けというか、今迄の主人公の頑張りが無意味になる事の自分の中での茫然自失感が助長されて良かったと思う。また、主人公のみならずそれぞれが単なる愛人の「浮気」の為だけに命懸けで殺し合いをして、後になってそんな些細な事のためだけに翻弄されていたと知った後、呆然となる結末も“狂犬”に通ずるようなノワールらしさが感じられて尚良かった。
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