mimitakoyaki

哀しき獣のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

哀しき獣(2010年製作の映画)
4.2
ハ・ジョンウ祭開催中という事で、ついにこの作品に来ましたよ!
ナ・ホンジン監督の三作品コンプリートです。

いやー、とにかくすごいんです、熱量が。
斧だの包丁だの刃物を武器にサクサク人が斬られていき、夥しい数の悪い人達が惜しげもなく死んでいきます。
韓国映画のバイオレンスはエグいですけど、この作品もかなりのもんです。

過剰なバイオレンス、過剰なカーチェイス、そんなに逃げ切れるものかな逃走劇、全部ハラハラしすぎて怖いながらも目が離せずに手に汗握るから、力入り過ぎて肩凝りそうです。
めちゃくちゃおもしろい!

主人公のグナムは中国北部の朝鮮系中国人の自治区に住んでるんですが、中国人からは朝鮮族だと下に見られ、奥さんはソウルに出稼ぎに行ったきり音信不通で、貧困で借金地獄。
そこに付け込まれて殺人依頼を引き受けてしまう事から破滅に向かう救いようのない話です。

自分の力ではこのどん底から抜け出す事はできないし、愛する妻も蒸発してしまうしで、その怒りのやり場もなく、絶望しかない孤独な男なんです。
韓国に行っても朝鮮族だと言われ、どこにも安住の地がない寄る辺なさに、朝鮮族という存在の厳しさと哀しさが浮かび上がります。

そんなグナムの朝鮮族としての暮らしから、韓国に密入国し、ターゲットを殺すまでの準備や奥さん探しの序盤もサスペンス的におもしろく見れるのですが、この殺人計画が思わぬ展開になり、そこから物語が全速力で走り出すんですね。

途中から色んな人物が絡んできて、頭ん中もこんがらがって、まんまと2回見せられるはめになりましたが、見境いなく噛み付く狂犬のように、容赦ない暴力にまみれる男たちの凄まじさに圧倒されっぱなしでした。

それはもうどえらい事になっていくのですが、元はと言えばすべて女の裏切りからなんですよね。
みんな狂気に取り憑かれ破滅していく愚かしさ。
ある意味コーエン兄弟の些細な事から取り返しのつかない凄惨な事件になっていく、あの感じにも似てるのですが、こちら韓国なので100倍エグいです。

なんせ斧振り回すんですから異常です。
さらに牛骨の使い方がなんとも乙で、「はじめ人間ギャートルズ」を彷彿とさせて、ここまできたら笑えてきます。
ソウル警察の人的物的な損害も相当なもんでしょう。
トレーラー横転からの爆発とか、西部警察みたいなやりすぎ感もあっぱれです。

そして、やはりやはり、ジョンウさん良いんですよ。
親指ギコギコする一生懸命なジョンウ、山の中で泣くジョンウ、韓国海苔を頬張るジョンウ、ちくわを投げつけるジョンウ、ニット帽のジョンウはちょっと黒板五郎みたいですが、どのジョンウも哀しすぎてグッとくる。
孤独で寡黙な負け犬、それでいてめちゃくちゃタフな男。
サランヘヨ。

さらに、キム・ユンソクの不死身っぷりもヤバイ!
あんなオッサンに斧で追いかけられたら堪らんよね。
中国で犬のブローカーみたいな事をやってる胡散臭さ、ホテルのロビーで大声でしゃべるデリカシーのなさ、牛骨でしばき殺す力強さ、船から海に飛び込んで地の果てまでも追ってきそうな狂気…
最高のキャラやん!
ハ・ジョンウvsキム・ユンソクにハズレなしです。

話がややこしくて混乱するとかあっても、それをも吹き飛ばす圧倒的な熱量にひれ伏しました。
DVD特典映像で人物相関図付いてたのはとても気が利いてて助かりました。
でもこれ、映画館で見たかったなー!
恐るべし韓国映画です。

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2回目: 2018.11.4
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