エクストリームマン

ボブ★ロバーツ/陰謀が生んだ英雄のエクストリームマンのレビュー・感想・評価

4.7
The times they are a-changin' back.

ギター片手に遊説し、カントリーソングにのせて古き良きアメリカを取り戻そうと説く男:ボブ・ロバーツ(ティム・ロビンス)の選挙活動を追ったモキュメンタリー。体制の腐敗を訴え、”叛逆”と”独立の精神”でコーティングした苛烈な全体主義/排外主義を推進し、着実に支持を伸ばしていく彼は、その実全く掴みどころのない虚ろな男であった…。

ティム・ロビンス監督・脚本・主演のブラック・ポリティカル・コメディ。アメリカ現代史に度々顕現する政治的な運動/個人の特性を、ボブ・ディランのドキュメンタリーをカヴァーする形でキャラクターに投影し、映画にしてみせるティム・ロビンスの手腕と眼力、センスが凄い。ボブ・ロバーツが生み出す異常な熱狂を、イギリスから来たドキュメンタリー番組のリポーターとカメラマンが追うという形式を取ることで、観客はライブ感と客観性を同時に提供された状態で映画を鑑賞することになる。しかしまた、あくまで番組の視聴者というポジションに置かれることで、真に決定的な瞬間を目撃することは最後までない。このモキュメンタリー形式と、何一つ決定的に明らかにならないボブ・ロバーツという不気味で不定形な現象とが見事に一致している。語りの内容と形式とが過不足なく一致する映画的快楽の局地。

鷹揚でユーモアに満ち、優しさと温かさに溢れた”父親”で、”普通ではない”経歴でウォール街に進出、”裸一貫で”成功した証券マンにまでのし上がった男、ボブ・ロバーツ。エリートなのにエリート臭はなく、親しみやすい言葉遣いだが、”腐敗した政治”には強い口調で物申す…これらは、アメリカ人が身近なヒーロー=政治家に求める一つの理想なのだろう。特に、ドロップアウトからの企業とか、(言葉遣いが)エリートらしくないというところは特に重要で、中西部・南部で政治家を志すなら必須のストーリー&スキル。勿論、NRAの会員であることも必要条件。そんな全てを網羅したやつが突然出てきたら、少しはおかしいと感じないのかと思うけど、おかしいと感じるより、寧ろようやく来たかと、結構な数の人間が思うらしい。ボブ・ロバーツに最初から違和を感じる人は反発するものの、支持者がそんな警告に耳を貸すわけもなく(ボブ・ロバーツを陷れたいやつの陰謀に決まっている、という思考)。この構造は、アメリカに限った話でもなくて、また右も左も関係なく、万遍なく世界に遍在しているように思える。それを観客に体感させる形で抉り出しているところが、本作の優れた点のひとつだろう。