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夏時間の庭のericoのレビュー・感想・評価

夏時間の庭(2008年製作の映画)
3.0
七十五回目の誕生日を祝ってまもなく、エレーヌは亡くなった。画家であり美術蒐集家であった叔父の家と、たくさんの美術の名品を遺して。彼女の三人の娘と息子は、それら遺品をかたづけるという大仕事を始める。

エレーヌの死の前後で時間は分断され、それを「空白」として描く手法を取る。その周辺に彼女の遺品と、家族の選択とを配置しながら、それぞれの世代の上に流れる時間の物語を現出させていく。

コロー、ルドン、マジョレルといった錚々たる芸術家の名品は美術館に並べられるものとばかり思っていたけれど、そもそもはこうして誰かの暮らしを彩るものだったことに、新鮮な驚きを覚えた。それら一つひとつに彼ら家族だけの物語があり、紐解くごとにかつての活気に満ちた時代がよみがえる。

美術館にそれらを展示するということは、そうした豊かな物語とは切り離された文脈のなかに置くということに等しいのかもしれない。時に不躾な心無い視線に、自分たちの物語だったものを晒す心中とはどのようなものなのだろう。って、オルセーの協力を得て撮った映画にしては随分不穏なことをするなぁ。

破綻もなく端正な映画だが、少し綺麗過ぎるかなとは思う。ただ、色彩はモネの絵の如く美しく、庭の眩しい緑の生命力と、老いの孤独が溶け出す夕景の青は非常に印象に残った。
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