小波norisuke

バベットの晩餐会の小波norisukeのレビュー・感想・評価

バベットの晩餐会(1987年製作の映画)
5.0
おいしそうな料理が登場する映画は数多あるが、この作品に出てくる料理は格別に、五臓六腑に染みいるようで、泣けてくる。

19世紀、デンマークの小さな漁村。いつも曇天で寒々しい。ルター派の牧師の娘である姉妹が、慎ましく穏やかに暮らす日々に、淡いロマンスが訪れる。ロマンスの当事者たちが皆、不器用で一途で微笑ましい。やがて、年齢を重ねた姉妹の前に、突如現れる、フランス人女性、バベット。彼女が、姉妹や村人たちの静かな生活にもたらす活気が、清々しい。

バベットが思いがけずに得た大金で、晩餐会を催すことを思い立ち、準備を進める様が、何とも楽しい。あの寒々しい村に、ウミガメ、ウズラ、牛が、列を成して運び込まれていく光景が壮観だ。そのあまりにミスマッチな、見慣れぬ光景に、当時のルター派の信仰がどれほど禁欲的なものであったのかは知らないけれど、姉妹や村人たちが衝撃を受け、恐れおののいてしまうのもわかる気がする。

こわごわ晩餐のテーブルについた村人たちが、次第に、料理によって心をほぐされていく。観ている私まで、食べたこともないのに、ウミガメのスープの豊潤な味わいに満たされた気分になる。

暴飲暴食はもちろんいけないけれど、おいしい料理を感謝して味わうことは、神様を賛美することだ、とある聖職者の方が言っておられたが、本当にそうだと思う。神様は、よいことを口にするためだけではなく、料理を味わうためにも舌をくださったのだから。

「天国に持って行けるのは、人にあげたものだけだ」と、姉妹の父である牧師が言っていたそうだ。「天に宝を積む」という聖書の言葉があるが、バベットはまさに、宝くじで得た大金を天に積んだのだ。神様はそんなバベットを慈しみ、バベットの料理を通じて、豊かに村人たちの心を満たされたのだろう。

「貧しい芸術家はいません。芸術は人を幸せにします。」というバベットの言葉。

ああ、本当にそうだ、と思う。だって、好きなシアターの片隅に陣取り、大きなスクリーンでこの映画を観て過ごした時間は、本当に私の心を潤し、幸せな気分で満たしてくれたもの。

東京ごはん映画祭、今年もご馳走様でした。
小波norisuke

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