デンマークの寂れた漁村、牧師の家に生まれた敬虔な老姉妹と彼女達に仕えるフランス人の家政婦。老いと共にすれ違いへと向かっていた村人達の心を、家政婦が料理を通じて繋ぎ止める。言うなれば人々が失いつつあった“信仰”を取り戻すまでの小さな物語であり、コミュニティにおける“魂の浄化”を穏やかに描いた物語なのだと思う。作中の舞台はキリスト教的な観念が色濃く、尚且つ普遍的なものとして存在している。途中までは若き日の姉妹のエピソードと家政婦の絡む物語がどう繋がるのか掴みきれない節はあったけど、最終的にはきっちりテーマの総括や後味として活かされている。
序盤からロケーションの閑散とした描写が印象的で、海辺の平野にて家屋が忽然と寄り合う村の情景からは何とも言えぬ侘び寂びが滲み出ている。そこで暮らす老人達の節制された生活が淡々と映し出されることも相俟って、一種の郷愁めいたものを感じられる。終盤に“解放”が描かれることもあり、何処か閉塞的な寂寞感が漂っている。映画は常に抑制された演出によって村の様子や登場人物を描き続け、それ故に作風の静謐さが際立っていて心地良い。絵面は端正でこじんまりとしているけど、それだけに時おり挟まれるカットの穏やかな美しさが印象に残る。
終盤の見せ場となる晩餐会のシーンも、過度に華やかな映し方をしていないのが印象深い。調理から食事までを、序盤からの流れと同様にあくまで淡々と描かれていく。そこにあからさまな絢爛さは挟み込まれない。されど端的かつ丁寧に捉えられた料理の描写や、その味に徐々に絆されていく村人達の様子からは、静謐な幸福感が確かに滲み出ている。誰も言葉には出さないけれど、皆して黙々と料理を口に運び続けるのだ。ただ一人、他所から来た将軍だけがその食事を率直に褒め称えるのである。ウズラのパイ詰めやウミガメのスープなど、(初見で怯むのも分かりつつ)いずれも美味しそうなのでやはり食べたくなる。
そして晩餐会を終えた村人達から滲み出る静かな解放感、何とも言えぬ温かさに溢れている。それまでの蟠りや諍いから解き放たれ、仄かな幸福に包まれていく姿の愛おしさ。その幸福感が巡り巡って姉妹の若き日の思い出にも繋がり、愛の受容/献身の体現へと昇華されていく。将軍の去り際のシーンがとても好き。ほんのささやかな一晩の出来事に過ぎないけれど、そんなミニマムな物語に飾らぬ情感と余韻を持たせているのが良い。
それはそうと異国のゲテモノ食材へのショックで悪夢を見るシーン、往年のホラー映画みたいな演出でちょっとフフってなる。