半兵衛

サン・スーシの女の半兵衛のレビュー・感想・評価

サン・スーシの女(1982年製作の映画)
4.0
これが遺作となったロミー・シュナイダーの美貌と人種差別の渦に巻き込まれた悲劇の女性を熱演する様に圧倒される。そしてこの映画での単なる美人女優を超えた高い演技力を見せた彼女が役者として躍進することなくここでストップしてしまったのかと思うと切ない。

映画の内容も主人公のユダヤ人マックスが現代パートで元ナチスの男を殺害しを通して戦前のドイツにおけるナチスのユダヤ人差別やそのナチスがヨーロッパを不気味に席巻していくさまが的確に描かれ、と同時に戦争の裏側に存在する人種の憎悪がマイナスとして連鎖していき負の遺産として残っていくという問題も描いており単なる反戦映画になっていないところも見事。

ノスタルジックな作風なためなのか80年代の作品にしてはバイオレンスな要素は殆んどないが、残虐な場面を間接的な表現で示したりさりげなく見せる嫌な動作で歪な感覚を残していくのが上手い。数少ないマックスがナチス兵に暴行され足を挫いてしまう暴力シーンは子供が調子にのっておもちゃを振り回して暴れているような感覚で描いているが、それがかえって良識を失った人間の無邪気な感覚をストレートに見せつけられて下手なバイオレンスより鬱な気分にさせる。

現代パートのマックスを演じるミシェル・ピコリの穏やかな振る舞いのなかに過去への想いにとらわれているさまを細やかに表現する名演も素晴らしい。

マックスの事件が裁判を通して色んな人に理解されハッピーエンドになるのかと思いきや、マックスの恋人に向けられたドイツ人の行為とラストのほのぼのとした主人公たちの会話に出るテロップで人間の社会の業を突きつけられる思いになりに暗澹とする。
半兵衛

半兵衛