よしまる

殺しのドレスのよしまるのレビュー・感想・評価

殺しのドレス(1980年製作の映画)
3.9
 観てみたい映画がいっぱいあるというのに。好物をCSでやってるとつい録画してしまってつい先にまた観てしまうことないですか?

 それはさておき(おくのか)デパルマ先生の持ち味が遺憾なく発揮された愛すべき作品であることをあらためて知れて終始ニコニコしながら観ている自分がいたw

 ヒッチコック大好きオマージュがダダ漏れなのもいいが、当時の奥様ナンシーアレンとのラブラブぶりもまた漏れまくり。

 デパルマ節とも言うべきスプリットスクリーンや長回し、スローモーションの多用、鏡に映った被写体とそれらの技法の組み合わせも含めてやりたい放題な実験的作品でありながら、極めてわかりやすく良質なエンタメに昇華させているのがすごい。
 美術館でのチェイスシーンにおける縦横無尽なカメラワーク、いまなら追尾機能付きのハンディカメラが家電店で普通に手に入ってしまうけれど、これをフィルムで撮ってるのだから驚く。

 そういった映画技法としての面白さもさることながら、誰が主人公だかわからない構成もまたそそられる。語り部不在で主役がコロコロと変わり、誰にも感情移入する隙を与えず、ただただ不安だけを煽る。まさにサスペンス映画の真髄をゆく傑作。

 個人的には前前作「キャリー」、次作「ミッドナイトクロス」のほうが抒情さ的でさらに大好きだったり、まんま「サイコ」っぽい前半のせいで残念ながら真犯人の衝撃度はまったくと言って良いほど無かったりするのだけれど、小技の応酬というか、集大成的な楽しさという意味においてはこの「殺しのドレス」には抗い難い魅力がある。デパルマの代表作とは言えないまでも、デパルマを最もよく表した映画であることは間違いなさそうだ。